2024.07.05
百年後芸術祭の最終日である5月26日(日)に、「百宴〜epilogue〜」が開催されました。このイベントは昨年11月5日に開催された「百宴〜prologue〜」に続くもの。”分かち合う”をテーマに人と人、人と自然との共生をプリミティブな食体験を通して学び、その先の続いていく未来に想いを寄せようという思いが込められたイベントです。
「百宴」の集大成となる今回は、前回を超える60名の参加者が集いました。開催場所は旧里見小学校。お天気にも恵まれたこの日、まずはKURKKU FIELDSのレストラン「perus」シェフの山名新貴さんからの挨拶と、イベントに込められた想いなどを聞きます。参加者とスタッフの気持ちを共有して1日を過ごす準備をします。
「この場所は、閉校になった学校にアート作品やカフェを併設し、感性を磨き、人々が集える新しい場所としてリジェネラティブな取り組みを実践している場です。以前より先駆けて未来に向けてアクションをしているこの場だからこそ、循環型の食体験を味わうのに相応しい一日となることを願っています。『食べる』という行為が自然環境を破壊するのではなく、今よりも豊かな自然環境を育むことに繋がるればと思っています。食べて終わるのではなく、100年後、私たち以外の誰かが生きる世界を想像しながら、未来に繋がるタネを蒔きたいと思います。100年後の未来に向けて、今日、この場に居合わせた人と、自然の恵みを分かち合い、時間と言葉を分かち合うひと時をお楽しみください」。
次に、ワークショップの説明をスタッフの佐藤剛さんにしていただきます。
「参加者の皆さんは、ふだん農業に関わることがそんなにないということを前提としてワークショップの内容を考えていますが、そんなことないよ!という方は初めての参加者に教えてあげたり、こういう風にやると気持ちいよねといったことを伝えてあげたり、一緒に作業を楽しんでください」
KURKKU FIELDSがある木更津からこの場所までは車で30分ほど。たくさんのスタッフの方が準備をしてくれていました。
まずは、ランチでいただく恵みを収穫したり、未来のための種を撒くワークショップからスタートです。
校庭にこんもりと盛られた小さな畑の前に集まります。これはドイツや東ヨーロッパで盛んにおこなわれてきた「ヒューゲル」という栽培床で、下地に枯れ木、次に枯れ草を敷いてその上に土を被せて堆肥と水持ちを兼ねさせるやり方だと言います。これと同じヒューゲルを隣にみんなで作ります。
あらかじめ切ってくれていた木の枝をせっせと運びます。小さな女の子も大きな枝を持ってやる気満々!
子どもたちも土をほり、草を撒き、にょろっと出てきたミミズや大量のダンゴムシに驚きながら畑を耕していきます。
みんなで土を掘りながら、佐藤さんが「菌ちゃん農法」について教えてくれました。
従来の有機農業は、人の健康や自然環境を守るために化学肥料などの人工的な農業資材を使わずに病害虫を回避し、生産する農法でしたが、新たな有機農業のスタイルとして「微生物(菌)の力を活用して育てる方法」が注目されていて、その方法を「菌ちゃん農法」というのだそうです。
つまり、従来は、病害虫は敵で、排除しようという概念から抜け出していません。そうではなく、病害虫にも地球上の大切な役割があると考え、病害虫は周りにいるけれど、病害虫にやられない野菜こそ、健康な野菜であると考える農法です。なるほど、やっていることは変わらないけれど、考え方は大きく違います。
「生命循環」という自然界の営みに沿って、生ごみや草木などの有機物(死んだ生物体)を土に戻し、微生物(菌ちゃん)の力を活用して育てる方法でこれにより、微生物(小動物)が爆発的に増え、微生物代謝物質を野菜が吸収してより健康になると言います。
こんもりとしたヒューゲルが完成したら、最後にに苗を植えます。ナスタチウムやディル、イタリアンパセリ、ボリジなどのハーブを植え終わるとみんなが満足気な表情!成長が楽しみです。
ヒューゲルづくりの次は、校庭の奥に移動し、野菜を収穫します。案内人はKURKKU FIELDSオーガニックファーム農場長の伊藤雅史さん。実はこちら、もともとは学校が使っていた花壇でした。スタッフのみなさんが春頃にここに種を植えて、この日のために準備していてくれたのだそう。畑には、にんじんやかぶ、紅大根などがたくさん育っていました。
「僕がこの小学校に初めてきたのは3月だったのですが、まだ土に雪が被っていました。それから種を植えて、今日のために育ててきたのですが、寒さに耐えきれず大きくならなかった大根もありました。でも大根の花は食べることができます。ぜひお花も収穫してくださいね」
ちょっと引っ張るだけでスポッと抜けるにんじん。その感覚が楽しくて子どもたちはどんどん抜いていきます。
「大根の花ってかわいい!」と、白く可憐な花も摘んでいきます。
収穫した野菜は、たらいに入れた水でキレイに洗います。泥をとると、そのままかじりたくなるくらいみずみずしくておいしそうです。
野菜を収穫したら、種だんごづくり。堆肥を入れた泥だんごに種を入れてみんなで一斉に畑に投げて次の収穫を待ち望みます。
「種だんごは水を含んでいるので、砂漠でも育つことができるんですよ」
おにぎりのようにこねこねと泥だんごをつくる作業は、大人にとってはとても新鮮で、みんなで楽しく畑時間を楽しむことができました。
さて、2時間ほどのワークショップでお腹はペッコペコ。いよいよお楽しみのランチタイムです!
「百宴」だけに、100人分の食材を一度に火入れすることができる焚き火台。みんなで収穫した野菜や魚介類がたくさん。
KURKKU FIELDSで飼っている子羊と子ヤギ。ミルクの出ない雄は育てていくのが難しいこともあり、今回はそのいのちをみんなで分かち合います。
大きなバナナの木の葉っぱをテーブルクロスに彩り豊かな食材がズラリ〜!すご〜い!!
「今日は千葉県の生産者さんにたくさんなった協力していただきました。朝から校庭の土の中で丸ごと蒸した野菜もあります。ピーナッツやバナナで作った数種類のドレッシングで色々な味わいを楽しんでみてください」と山名さん。
今回のメニューはこちら。さまざまな千葉の生産者さんが食材を提供してくださいました。
〜当日メニュー〜
・採れたて野菜のガーデンサラダ(KURKKU FIELDS)
・地中蒸し野菜のバーニャカウダ(KURKKU FIELDS)
・Bocchiのピーナッツスパイスソース(Bocchi)
・寺田本家の酒粕アンチョビソース(寺田本家)
・バナナハニーソース(木更津バナナファーム、ワンドロップファーム)
・猪の薪火グリルと山椒オイル(KURKKU FIELDS)
・真鯛の姿焼きとファーべ(平井水産、エコファーム浅野)
・Lankaの全粒粉パン(KURKKU FIELDS)
・真蛸のグリルとマッシュポテト(漁師工房拓)
・小川さんのキャロットケーキ(KURKKU FIELDS)
・仔羊の丸焼き(KURKKU FIELDS)
・仔山羊の丸焼き(KURKKU FIELDS)
全部食べたいので、少しずつ竹のお皿に盛り付けます。自分達で収穫したにんじんやかぶはとっても甘く、ピーナッツのスパイスソースやバナナハニーソースはお肉にもとっても相性が良くて満たされました。Lankaの全粒粉のパンもしっかりとした食べ応えで、どんどん食が進みます。何より、一緒に畑を耕したり、収穫したみんなで食事をするのがとても楽しい。「今日はどこからきたんですか?」「芸術祭はどのあたりをめぐりましたか?」なんて会話も弾みます。
夏みかんとハチミツのドリンクも甘酸っぱくて最高の味わいでした。
デザートは絶品のキャロットケーキを二つも食べて、お腹いっぱい!
イベントは食事が終わったら終わり、ではありません。最後には竹の器やコップ、食べ残しの生ごみなどをすべて燃やして畑に還すという作業もみんなで行いました。燃え盛る火を眺めながら、畑を耕し種を蒔き、育った野菜を収穫し、みんなでおいしくいただいたことにすごく充実感で満たされたことを実感。
「今日は、当初目標にしていた100人とはいかなかったですが、約60人の参加者の皆さんと一緒に、農場から食卓へ至るまでのプロセスを体感していただきました。料理は原始的な調理法だけでなく、バナナの葉のお皿や竹の器、クロモジの箸置きや柑橘をくり抜いたコップ、と食事で使用する食器はナチュラルなもので統一し、最後には燃やして畑に還すというところまで体験していただきました。食べるだけで終わらない、終わらせないことがその先の未来に向けて重要なアクションであると改めて感じていますし、感じていただけたかと思います。今日はみなさんといい時間を分かち合えて嬉しかったですと山名シェフ。
ふだん、私たちが使っているすべてのモノはほとんど土に還らないものばかりですが、自然界のものを工夫して使うことで、こうして循環させることができる。シンプルだけど、これって日常に活かすことはすごく難しい。しかしながら、世界中の人々が、日々の営みの中で少しでも循環を意識して生活することができたなら、百年後の地球は今思い描くよりも暮らし良い場所になっているかもしれません。
「たとえ世界の終末が明日であっても私はリンゴの樹を植える」と明言を残したのはドイツの神学者マルチン・ルターですが、百年後の未来を考えたとき、地球から緑がなくならないように、花や作物がんばくならないように、一粒でも多くの種を植えたいなと感じました。
百年後芸術祭のクロージングイベントとなった「百宴」は、参加することで、身体を動かすことで、食べることで、百年後の未来を考えることができる素晴らしいイベントでした。なにより、百年後も、その時代に生きている人が、大切な家族や友人と笑顔でおいしい食事を囲むことができていたらと願ってやみません。
Text:Kana Yokota