ストーリー

百年先の未来を想いながら、食をみんなで分かち合うことの喜びに触れる。「百宴〜Prologue〜」レポート。

2023.12.25 | 木更津市

イベント | EN NICHI BA

11月5日(日)に開催された「百年後芸術祭 EN NICHI BA Special  百宴〜Prologue〜」。このイベントは、KURKKU FIELDSのレストラン「perus(ペルース)」の山名シェフが、この土地で採れた恵みを「分かち合う」ことを通して、参加者と共に未来に思いを馳せる時間を形作りたいという想いから企画されました。

“生きることは食べること。「食」は私たちの身近な楽しみであり、喜び。しかし気候変動が進み、日常が確実に変化している今、私たちがどのような食材を選択し、食べ、生きていくのか。今まで通りの暮らしで100年先の豊かな未来を創造できるのか。一度立ち止まり、想像してみる時間が必要かもしれません。「食べる」という行為が自然環境を破壊するのではなく、今よりも豊かな自然環境を育むことに繋がればー。”

そんな山名シェフの想いが込められた百宴に参加したのは30名。友人同士や家族での参加など、年代もさまざまな人同士が集まりました。

案内人を務めるのはKURKKU FIELDSのスタッフの佐藤剛さん。

「百宴という名前の由来は、100人以上のたくさんの方々とこの時間を共にできたらという想いがあるのですが、初回はそこまでの規模ではなくこの30名のみなさんで、100年後を考えながら過ごせたらと思っています。100年後を考えるということは、誰かのことを考えるということでもあると思います」。

続いて、企画者である山名新貴シェフからの挨拶です。

「僕はふだん、cocoonのperusという宿泊者限定のレストランでシェフをしていますが、今日は外に出て、木更津の風土を感じていただきながらおいしい食事をみなさんで分かち合うことができたらと思っています。100年後に向けて、一人一人、残したいものや感じることは違うと思いますが、思いは違えど、今回は『分かち合う』というテーマのもとお肉や魚といったお料理、そして環境、ここで過ごす時間、感じることを分かち合いたいと思っています」

まずは、火を燃やすための枝や枯れ葉を集めることからスタートです。意外と燃えやすそうな枝を探すのは簡単ではないことを感じつつ、参加者の方々とワイワイ探し歩きます。そして、使わなくなった麻紐をほぐしたものと一緒に火に投げ込みます。

ライターで一瞬にして火をつけることはできるけれど、こうしてみんなで枝を集め、麻紐をほぐす作業を経ての点火は感慨深いものがあります。こんな風に自分で火を起こす体験は初めてだという人も数名いました。

そして次にKURKKU FIELDSの場内を探索しながらファームツアーに出かけます。

オーガニックファームで育っているオクラやパプリカ、マイクロキュウリなど、その場で齧りながら収穫します。みずみずしくて甘酸っぱいマイクロキュウリの美味しさにみんな感激しながら、先を進みます。ビニールハウスでは菜の花やかぶ、ラディッシュ、いんげんなどを収穫します。

エディブルガーデンにはたくさんの種類のハーブが育っています。レモングラス、ローズマリー、ミントなどフレッシュな香りを楽しみながら散策。エゴマの葉っぱを食べてみると、シャキッとしたフレッシュさと濃厚な味わいに驚きます。

水牛にもご対面! 日本では数えるほどしか飼育されていない水牛ですが、KURKKU FIELDSではなんと約30頭も飼育しています。この水牛のミルクで作られたモッツァレッラチーズはKURKKU FIELDSのシグネチャー的な商品でもあり、本場イタリアで研鑽を積んだチーズ職人・竹島英俊さんによってつくられています。

1時間程度のファームツアーを終えて、会場に戻ります。

ウェディングパーティーかのようにスタイリッシュにコーディネートされたロングテーブル。一人一人セッティングされたお品書きには、手書きで「分かち合う」と書かれていました。

・風土〜Cooking in the Earth
・生命力
・薪火
・山海の循環
・矛盾の中で

といった素敵な言葉もありました。(あとでメニュー名だったことに気づきます)

最初にいただいたのはウェルカムドリンク。お米を入れた木の器にはグレープフルーツをくり抜いてできたカップが。蓋を開けると、グレープフルーツの果実と米麹、ミルト、ハチミツを漬け込んだというドリンクでした。

「ミルトはイタリアのサルデーニャ島名産のハーブで、現地では葉を月桂樹の葉の感覚で料理の香りづけにしたり、実をリキュールに漬け込んだりするんですよ。和名は銀梅花(ギンバイカ)と言います」とは、perusでドリンクを担当している小高光さん。

みんなで乾杯!!甘酸っぱく、奥深い味わいでありながら香りでも楽しませてくれる不思議な感覚のドリンクでした。

みんなで収穫した採れたての野菜を蒸し焼きにしてくれたもの、具材たっぷりの農場のミネストローネ、グリル野菜の盛り合わせが食卓に並びます。「ちょっと小さいかな?」「このハーブはじめてみた!」なんて会話をしながら自分たちで収穫した野菜やハーブが目の前に調理されて供されるので、会話も弾みます。「これ食べますか?」「これ美味しいですよ!」そんな声がけもロングテーブルでの食事ならでは。

今回初めてKURKKU FIELDSにお目見えしたこちらの焼き場は、宿泊施設「TINY HOUSE VILLAGE」などを手がけた竹内友一さんによるもの。黒い鉄でできたスタイリッシュなこの焼き場は100人での宴もカバーできると言います。

千葉県鋸南町勝山の海でとれた真鯛の吊し焼き。ハーブと薪火キノコで香り付けされたポルチーニクリームソースといただきます。

薪火でじっくり焼いた猪肉のタリアータはKURKKU FIELDSのある木更津市矢那で生産された矢那栗のラム酒シロップ漬けとキャラメリゼした柿とともにいただきます。全粒粉のパンもさっくさくであとをひく美味しさ。

テーブルの上の食事がすっかりなくなるまで、心地よい風と会話を楽しみながら過ごしました。そろそろ宴の終わりです。

こんなにもたくさんの人と、一つのテーブルを囲んで食事をする体験はそんなにないので最初はドキドキしたのですが、みんなで共同作業をした後だったこともあり、楽しく話が弾んだことも印象的でした。大きな鍋でどっさりつくったスープや大きな塊の肉をみんなで分け合うという楽しさも、日常生活ではほとんど経験しないので、こんなにもあたたかい気持ちになるんだということも大きな気づきでした。美味しい食事が真ん中にあればみんな笑顔になる、ということも改めて実感。

そして、食事の後、竹など自然素材で作られた器は最後にキャンプファイヤーをして自然に還したり、料理で使った植物の種を未来へ向けて撒いたり、「循環」という言葉の意味をより実感できる体験も心に残りました。

百年後、私たちは生きてはいないけれど、今私たちが行動することの一つ一つが確実に未来に何かしら影響を与えるのだということを感じた一日。良くも悪くも。自然の営みの循環の中で私たちは生かされてきたのだから、自然が喜ぶことを私たちも返していかないといけない。そんな意識も高まりました。

<<参加された方のコメントもいただきました!>>

「千葉に住んでいるのですが、KURRKU FIELDSに来たのは初めてでした。こんなにも素晴らしい場所で、素晴らしい取り組みをされていることを知って驚きました。野菜も猪のお肉も美味しかったですし、参加して本当によかったです」

「Instagramでこのイベントを知って、私が理想とする世界観のイメージとぴったりだ! と思って参加しました。分かち合う、というテーマが素敵だったし、初めましてのみなさんと楽しく野菜を収穫したり、お食事をしたり、日々の生活でもこんな時間を過ごしたいなと思いました」

「保育士の仕事をしているのですが、子どもたちにも同じ体験をさせてあげたいなと感じました。自然の循環の仕組みもあらためて勉強したいです」

「また来たい!!」

最後に、山名シェフからはこんなコメントをいただきました。

「今日は、思い描いていたイメージ通りの時間をみなさんと共有できたと思います。食べるということはその前にも後にも大切なことがあります。料理人としてもそれは昔から感じていたことだったのですが、KURKKU FIELDSで働き始めてその思いがより深まりました。身体を動かして、自分たちで火をおこし、収穫するという体験が、参加者の方々により食べるという体験の奥深さを味わってもらえるものになっていたら嬉しいです。そもそも、今回このイベントをやろうと思ったきっかけは、コロナ禍でみんなが距離を置いて過ごさないといけなくなって、壁ができてしまったことでした。やっぱり人類って昔からお互いが協力しあって、分かち合って文明を築き上げてきたと思うので、そのことの大切さにたくさんの人が気づいたと思うんですよね。僕もその一人なのですが、分かち合うということを体験するのに食はわかりやすいと思うんです。身体にダイレクトに入ってきますからね。以前からなんとなくあった構想が、百年後芸術祭のテーマと合致して、今回開催できたことを嬉しく思っています。序章を経て、また来年春に向けてすでに準備を進めています。参加していただける人数を少しずつ増やしていって、いつか本当の百宴ができるように、僕らも体制を整えていきたいと思っています」

春の「百宴」もお楽しみに!!

Text:Kana Yokota

ストーリー一覧へ