千葉県
2023.08.14
インタビュー
「百年後芸術祭」に触発された方々が、千葉の各地域でうねりを起こしてもらうきっかけになれば。
千葉県知事 熊谷俊人 ---------まずは今回の「百年後芸術祭」開催の経緯をお聞かせください。 今年は千葉県誕生150周年ということもあり、これを機に、千葉県広域で文化芸術のうねりを起こしたいというのが、想いとして出てきていたんです。そんななかで、小林武史さんと北川フラムさんという全国的に活躍されている方々と、我々千葉県がご縁をいただくことができました。フラムさんは市原アートミックスを開催されてきた蓄積があったことも大きかったですね。「百年後芸術祭」というコンセプトが小林武史さんや皆さんから出てきて、最終的には内房総5市(市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市)いう形で、まず市町のエリアを越えた母体ができて、さらには100年後を考える芸術祭というコンセプトに賛同された他の地域からも一緒にやりたいという話が出てきてくれたので非常に僕らが理想とするような流れができているなと感じています。 ---------芸術祭開催にあたって、千葉県の魅力や可能性をどのようなところに見出されていますか? 僕はいつも千葉県は“日本の縮図”だと申し上げているんです。まず都市を代表する商業と工業という分野において産出額が全国で1桁の順位なんです。そして、日本の地方の象徴である一次産業である農業、水産業、こちらもいずれも1桁順位。この都市的な商業、工業、それから自然豊かな農業と水産業といった4つともがすべてトップテンに入っているというのは、全国でこの千葉県のみなので、どれだけ千葉県が日本の両面をしっかりと兼ね備えた県かということがお分かりになるかと思います。 そして、地政学・地理的な特性で言えば、千葉県というのは日本の首都である東京の隣にあります。そして成田空港があるという観点で言えば、まさに世界に最も近い場所です。そういった、非常に総合的な魅力にあふれた千葉県の中には、ある種いろんな文化が根付いています。それは都市的な人々が密集するがゆえに生まれてきた都市文化もあれば、自然豊かなそうした環境だからこそ生まれてくる文化もあります。 千葉県は令和5年6月15日に誕生150周年を迎えた。「百年後芸術祭」はこの記念事業の一環として開催される。 千葉県マスコットキャラクター チーバくん 特に僕らは三方を海に囲まれた海洋県でもありますので、特に特徴的なのは、海にまつわる文化だと思うんですね。たとえば、僕らはオリンピックで史上初めてサーフィンを開催をした地域でありますが、サーフィンといえば当然波。この波という切り口で言えば、波を克明に掘って浮かび上がらせて浮世絵にも影響を与えた「波の伊八」の存在があるなど、波に非常に関わりのある文化を持っています。漁業との兼ね合いで言えば、大漁だったときに、漁師に対して晴れ着を渡す、「万祝(まいわい)」という非常に日本の特徴的なデザイン様式が息づいています。そういった、海と関わってきた文化、習俗、デザイン、芸術こうしたものが私達の千葉県には根付いていますので、先ほど申し上げた都市的な文化、それから自然豊かなところから育まれてきた文化、そのなかでも特に千葉県において特徴的なものに光を当てて文化の振興策を作っていきたいですし、「百年後芸術祭」ではそうした都市と自然の両方を、対立軸ではなくて東京の隣の県でもあり、かつ地方県でもあるというこの千葉の魅力を発信できる芸術祭が展開できるのではないかなと思っています。 ---------10年後、20年後といった近い未来の千葉県像のイメージがあれば教えてください。 新型コロナウイルス感染拡大の中で大きく変わったのは、人々の生き方や働き方に対する価値観やスタイルだと思うんです。我々千葉県は、以前から2拠点居住の場として移住する方々が非常に多かったんです。サーフィンをした後に働くことができますし、自然とともに生きながら、東京にもすぐに行くことができる。そんな東京との距離感に魅力を感じて、2拠点生活や移住をされる方が増え始めてきた中で、新型コロナウイルスの感染拡大があり、テレワークが一気に社会として浸透しました。千葉の自然豊かな環境でテレワークをするスタイルが特に増えて来たなというのを実感をしています。 10年後20年後というスパンで考えれば、より技術は進化していきますし、働き方のスタイルもさらに多様化していくでしょうから、ますます千葉の自然豊かな環境で東京や世界というフィールドで仕事をするということができるようになってくると思います。そういう意味では、より千葉県が豊かなライフスタイルを実現する最も適した場所として、より多くの方々に注目をされるようになってくると思っていますし、そういう社会や新たなライフスタイルを実現するための支援策や取り組みを今加速化しているところです。働くこと、生きること、自然と触れ合うこと。今まではそれらを手に入れるために場所を移動していたけれど、すべて千葉県内で実現することができるということを、全国に発信をしていきたいと思っています。 さらには、その流れの中で、自然豊かな環境の中で芸術や音楽を楽しむことができるという千葉県らしさももっと広げていけると思うんです。たとえば市原アートミックスも、自然豊かな環境の中で現代アートを楽しめるという、東京では実現できない感動体験や刺激が得られるということを多くの人が実感したと思うんです。そして、今千葉は「音楽フェス県」となっておりまして、世界でも屈指の大きな音楽フェスが、春夏秋冬いつでも楽しめるようになってきています。もちろんホールの中で聞く音楽というのも充実していますけれど、やはり自然豊かな環境で音楽を聞くことの豊かさがあると思います。これらをもっと大事にしていきたいと思ってますので、千葉でしか味わえない豊かな生き方というのを、多くの皆さんが実感して、千葉に住んで暮らしている世界を、僕らは10年後20年後に作りたいと思っています。 ---------実際にそういったライフスタイルの支援策を具体的に進めているのですか? そうですね。たとえばワーケーションのように、旅行と仕事が兼ねられるような新たなスタイルも出てきていますので、そういう拠点を整備するときに我々県としても支援していますし、そういう生き方があるということそのものを発信するようにしてきています。実際に私の知人もそういう生き方を満喫してる方々が多いんですよ。 千葉県にはジビエ文化もあり、イノシシやキョンなど、農家を守るために駆除した上で、そのお肉をしっかり自然の恵みとして活用していただくという究極のサステナブルな生活スタイルを、テレワークで最先端のIT企業で働きながら実施されてる方々もたくさんいます。そういう生き方をぜひ広げていきたいですね。 KURKKU FIELDSの存在も大きいと思っていて、コンセプトがしっかりしていて、哲学もあって、そしてアートやデザインもあって、豊かなライフスタイルを総合的にコーディネートされた形で展開していただいているので、まさに我々の目指すべき社会をあの場所で具現化してくれているなと思います。 ---------100年後、どんな未来を望みますか? 100年後となるとまず一つ言えるのは、人口が減少していく社会の中で、おそらく日本人以外にも多様なルーツを持つ人たちがともに暮らしていけるようになっていることが考えられますよね。技術も進化をして、AIであったりロボットであったり、生身の人間以外にも社会にいろいろな形でなくてはならない存在が入ってきていると思います。そういう意味では今多様性というのが言われておりますが、僕らが今思っている多様性よりも、もっと広い次元で多様性のある社会が構築をされていると思います。そういう中で、その多様性を最終的に“価値”に落とし込んでいくためには、多様性を受け入れて、そしてともに生きていけるような、共通の想いや価値観、文化など、いろんなものが必要になってくると思うんです。 ですから、「百年後芸術祭」というものがこの千葉県誕生150周年の一過性のものに終わらずに、このコンセプトなり芸術祭というものがずっとその後も、千葉県の中で生きて広がっていくことによって、100年後の多様な社会のみんなの共通のよりどころというか、そういう存在に発展してくれることを期待しています。 そして、僕らが常に考えなければいけないのは、千葉という場所が日本や世界でどう貢献できるのか、どういう新たな価値を僕らが提示できるのかということが大事だと思っているんですね。東京や都市の中で生きてる人の中には、「引退したら田舎で生活しよう」みたいな、何となくおぼろげな人生イメージを持っている人たちが多いと思うんですけれど、千葉はそうではなくて、まさに働きながら自然とともに生きていくライフスタイルが実現できるんだよということもしっかりと提案したいと思います。 千葉は、おそらくこれから分散型エネルギーの見本的な場所になると思います。我々は太陽光発電、洋上風力発電、火力発電もあり、さまざまなエネルギーが集まっています。そういった分散型のエネルギーとしての姿も、千葉県というのは日本の中で特徴的な場所になるでしょうから、SDGsというキーワードがよく言われておりますけれども、そうした新たな社会のモデルが千葉から進んでいきますので、そうした姿も、我々としては世界にしっかりと発信をしていきたいと思っています。 ---------熊谷知事のオフの過ごし方、千葉好きなスポットなどがあれば教えてください。 千葉で暮らしていて本当にいいなと思うのは、子どもたちと休みの日に食事していて「これからイチゴ狩り行こう」とその日に決められること。車で20分も行けば大自然の中でイチゴ狩りができますし、一時間行けば外房で地引網ができる。普通に生活していて、ふらっと大自然でのアクティビティができるところが家族で生活をする上で魅力的だなと思います。一方で、マリンスタジアムで千葉ロッテマリーンズの応援をしたり、幕張メッセで行われる大きなイベントなどを見に行ったりといった、都市的な生活も謳歌することができますので、思いついたときにやりたいことが全部同じ県でできるというのは本当に魅力的なんですよ。 ---------「百年後芸術祭」に期待することを教えてください。 まずは、フラムさんに市原アートミックスをやっていただいているので、その土壌は必ず生かされるんだろうと思っていますので、そこからさらにフィールドが広がり、市原以外の街におけるアートがどのように溶け込んで、「こんな場所でアートを展示するんだ!」というような新たな驚きを、個人的にも楽しみにしています。そして、今回はやはり小林武史さんも入っていただいてますので、音楽の部分が合わさって、五感全体で楽しめる芸術祭になると思います。 そして、千葉の方々がまず千葉に自信を持って、「千葉の魅力ってここなんだ!」と実感していただくこと、そして、自分もこういうふうに行動してみようというきっかけになって欲しいです。芸術祭に触発された方々が千葉の各地域でうねりを起こしていただきたいですし、県外から来た人たちには千葉の魅力を実感をしてもらい、最終的には千葉に来ていただいたり、二地域居住していただいたり定住していただいたりという、そういう波及効果が出ることを期待をしています。 ---------千葉県誕生150周年事業としては、どのようなことを目指されているのでしょうか? 目的は大きく二つあります。今までは市町村それぞれで文化的な取り組みをやってきたと思うのですが、今回は千葉県全体で歴史であったり文化的資源だったりを一緒になって盛り上げていくという、市町村の枠を越えて一緒にやるからこその母体がしっかりこの機会に生まれてほしいと思っています。「百年後芸術祭」はそういう意味で、市町村を越えて行われる一つの取り組みです。そして、「百年後芸術祭」だけでなく、いろいろな場所で市町村の枠を越えた取り組みが行われますので、それがまず一つ、僕らの大きな目的です。 もう一つは、もう行政だけで目的を完遂できる時代ではないので、民間をはじめ、企業やいろんな方々と組んで実現をしていく中で、この150周年がある種、千葉県のことを考えていただくいろんな方々とコラボするいいきっかけになっています。前々から地域に貢献したかったという方々が、この150周年を契機に、県庁の門を叩いてくれていますので、それは150周年が終わっても、信頼関係や連携事業が息づいていることになるので、その二つの目的は、関係者の皆様方のおかげで少しずつ形になってきていると思います。「チーム千葉」として、一層チーム力が高まるきっかけになればと思っています。 text :Kana Yokota