ストーリー

新たな形のバンド「Butterfly Studio」によるライブアートパフォーマンスを「百年後芸術祭」のこけら落とし的なイベントにしたい。

2023.08.28 | 千葉県

インタビュー

千葉県誕生150周年記念事業総合プロデューサー 小林武史

———まずは今回の「百年後芸術祭」発足の経緯をお聞かせください。

経緯となると少し長くなるのですが、僕が千葉・木更津でKURKKU FIELDSの前身となる農業生産法人 耕すを始めてしばらくしてから2011年に東日本大震災があり、ap bankを通じてボランティア活動をかなり大がかりにやっていたんですね。

それまでも未来に続いていくためのサステナビリティな活動を続けていましたが、震災があって、より東北に焦点を当てて時間をかけてやってきました。そんなとき、2012年だったと思いますけれども、ある知人の紹介でぜひ行ってほしいところがあると。それが新潟で行われていた大地の芸術祭だったんです。

北川フラムさんがやっているということくらいしか知らなかったのですが、実際に訪れてみて、本当にこの世界は地域の繋がりや営みでできているなと実感したんです。中央の権力に追従していくだけではなく、危うい未来に対しての問いかけをアートを通じてこんなに見事に実践している人がいることに感動しました。

一方で、僕らは2005年からap bank fes という音楽イベントを静岡県のつま恋でやっていて、震災後に復興支援の一環として2012年に東北でも2日間やりましたが、2、3日で終わってしまう音楽イベントだけでは絶対に成し遂げられない、もっと地域に入り込んで、会期が終わっても町自体がアートを通じて、良い方向に向かうような活動をするべきだと思ったんです。そうして始めたのがReborn-Art Festival(リボーンアート・フェスティバル)でした。

そして、それとは別に、食を通じて続いていく未来をつくっていくために最初にお話しした「耕す」を木更津で並行して続けていたんですね。もちろん音楽活動もやりながらですが、2010年代はずっと東北と千葉の両方で活動をしていたんです。そして、2019年に農業法人からもう一つステップアップしてお客さんを呼び込める場所としてKURKKU FIELDSをオープンしました。KURKKU FIELDSは決して僕個人の利潤追求のためにつくったわけではないのですが、やはり一つの事業としてスタートするべきだという風には思っていました。

千葉県木更津市にある30haの広大な土地を利用して、「農業」「食」「アート」の3つのコンテンツを軸としたサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」を2019年にオープン。
2017年に宮城県石巻市・牡鹿半島を中心に51日間にわたって初めて開催され、豊かな自然を舞台に地元の人々とつくりあげた、「アート」「音楽」「食」を楽しむことのできる新しい総合芸術祭。3回目の「Reborn-Art Festival 2021-22」は「利他と流動性」をテーマに開催。

一方で、Reborn-Art Festivalというのはボランティアの延長で行っているものだという感覚があり、だからこそ僕は石巻の各地域に入り込んでいって、化学反応を起こしていく、出会うということをやってきました。ネガをポジに変えるアートの力をすごく感じたこともあり、東北と同じようにKURKKU FIELDSのある千葉でも芸術祭ができないかというようなことを実は数年前から妄想していたんです。

同時に、フラムさんが市原市で「いちはらアート×ミックス」をされていて、何度か見学にも行っていたんですね。アートというものが想像力や創造力を繋ぎ、この世界に足りないものを補っていく力があるということを感じ、KURKKU FIELDSでもアート作品を展示し始めていたこともあって、少しずつプロジェクトを始動しました。フラムさんと話す中で、若いクリエイティブディレクターを入れたいということで、大木秀晃君(OOAA inc.)に参加してもらい、小さなチームをつくりました。彼らとブレストしていく中で出てきた言葉が、「百年後芸術祭」というものでした。

———「百年後芸術祭」の具体的な内容についてお聞かせください。

「百年後芸術祭」はかなり大きなプロジェクトですから、フラムさんにお任せする部分と別軸でまず最初に目立つイベントをやりたいと思っています。

僕が音楽家だということもあるのですが、一つ一つのアートと対峙していろんなものに出会ったり気づいたりというようなアート鑑賞もすごく素敵だけれども、音楽をやっていると時間軸の中での表現なわけで、今回はその時間軸の中でできるアートパフォーマンスにチャレンジしたいと思ったんです。つまり作品を展示するだけじゃなくて、「こういうことをこの百年後芸術祭ではやりますよ」ということを最初の段階で見せていくのがいいんじゃないかと考えました。

大木君が「百年後芸術祭」というネーミングを考えてくれて、この芸術祭をどんなものにしたいかと話すうちに、千葉という場所があまりに東京と近いために旅情を感じられる要素が少ないということが課題に上がりました。フラムさんがやってこられた瀬戸内や新潟、奥能登芸術祭などとは違って都心からすぐ来られる場所なので、センチメンタルやノスタルジックということとは違う、もっと現代の最先端のクリエイターによるテクノロジーアートを見せられないかと思ったんです。

そこで新たに結成したのがButterfly Studio(バタフライ・スタジオ)です。音楽だけでなく、映像、テクノロジー、サイエンス、コンテンポラリーダンスなどさまざまな分野のアーティスト、クリエイターが新しい表現を創りだすために集まっていただきました。さまざまな才能を持った人がバンドのように集まり、お互いの感覚を響き合わせながらつくっていくチームで、このチームでやるイベントを「en(エン)パフォーマンス」と名付けています。現在「百年後芸術祭」のための作品を製作中で、具体的に決まっているものとしては、KURKKU FIELDSを舞台に10月21日に開催するライブアートパフォーマンスです。

僕が音楽制作に携わらせていただいた岩井俊二監督作品『スワロウテイル』という映画がありまして、この劇中に登場するYEN TOWN BAND(イェン・タウン・バンド)のChara、同じく岩井監督との2作目『リリイ・シュシュのすべて』という作品でLily Chou-Chou(リリイ・シュシュ)を務めたSalyu、そして、10月13日に公開される3作目の音楽映画「キリエのうた」の主演Kyrie(キリエ)を務めた元BiSHのアイナ・ジ・エンドに参加してもらいます。

Butterfly Studioのスペシャルプレゼンツとして「百年後芸術祭」にお招きする感じですね。僕と岩井監督の3部作記念でもあるし、Kyrieデビュー後の初ライブ記念でもあって、いろんなことが重なっています。

また、Butterfly Studioにはドローンチームもいて、個人的にもとても楽しみなチャレンジです。ドローン技術もどんどん進化していて、アメリカのバーニングマンというフェスでも近年音楽と融合したドローンパフォーマンスが話題になりました。こちらもぜひご期待ください。

———Butterfly Studioとしての活動は「百年後芸術祭」後も続いていくのでしょうか?

そうですね、一過性のものとは考えていません。100年後の未来を考えながら、新たな表現を創り出すバンド、と言う形態なので、僕自身もどう進化していくのか楽しみにしています。

大震災や温暖化問題、コロナ禍などを経て、僕らは自然の一部であるということを感じないで生きていくことはできなくなりました。僕らの社会的な営みがこうして地球の気候にも影響を与えているということが鬼気迫る勢いで課題となっています。

これから僕らは自然とどういう関わり方をしていくべきなのか、東京を支えるための役割であった場所と東京という大都市とを俯瞰で見るといった視点は僕の中でずっとあって、それは「人工と自然」ということでもあるのですが、Butterfly Studioとしてもその着眼点を持ってコンセプトを考えています。

———「百年後芸術祭」の開催準備を進めていくなかで、芸術祭プロデューサーとして課題やハードルだと感じることはありますか?

Butterfly Studioでいえば、みんなが各界の第一線で活躍している方々ばかりなので、予定を合わせることのハードルにはじまり、みんなの意見を合わせることの難しさはやはりありますね。プロデューサー的にはそれぞれのクリエイターやアーティストの持っている才能にさらに加算というか、僕が入ることでさらに響かせていくということもあるのですが、逆に有機野菜のように、素材の持つ良さをそのまま生かしたほうがいいんじゃないかということもあって、そのメリハリを大切にしたいと思っています。

50分ほどのパフォーマンスの時間軸の中にいろんな要素が入ってきますから、そこには主従関係がほぼないんですよね。たとえば今年ap bank fes’23を開催しましたが、あれはBank Bandとして櫻井君に演者としてメインになってもらっていますが、Butterfly Studioはそうではなく、メインの演者は立てずにやろうとしているんです。今年の秋から「en」のパフォーマンスをいくつか開催予定ですが、やっぱりいいものをつくって話題になりたいので、そこが一番の課題と言えるかもしれませんね。

———「百年後芸術祭」に興味を持ってくださっている方にメッセージをお願いします。

「百年後芸術祭」は、内房5市(市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市)で行う“内房総アートフェス”を中心に、市川市、佐倉市、山武市、栄町、白子町でも、各エリアその場所に応じたコンテンツを考えています。メインの期間としては、来年の3月半ばぐらいから5月までの2ヶ月間です。ちょうどゴールデンウィークもはさみますし、Butterfly Studioのパフォーマンス「enパフォーマンス」やアート作品の展示、食のいろんなイベントも企画予定です。春の比較的気候もいいときに房総半島を巡ってもらえると、きっと楽しんでいただけると思います。

実際に走り出していて感じるのは、やっぱりみんな100年後という言葉に反応するんですよね。おそらく100年後に希望だけを託せるものでもなくて、ディストピア的なイメージを想像する人も少なからずいると思います。そういう意味で「百年後芸術祭」は決して希望的観測だけではない、もっとエッジが立ったものになっていくと思います。

また、KURKKU FIELDSという牛や鶏がいる農場にドローンを飛ばすことも実験的ですし、エンターテイメントとしても楽しいものにしたいと思っています。できれば時間をかけて千葉を巡ってもらったり、何回かに分けて来てもらったりしてもらえたら嬉しいですね。この芸術祭に少しでも関心を持っていただけたら、ぜひ足を運んでいただきたいと思っています。

text :Kana Yokota

小林武史

音楽家。80年代から現在まで数多くのアーティストプロデュースや映画音楽を手がけ、日本の音楽シーンを牽引する第一人者。Mr.Childrenの櫻井和寿、坂本龍一氏と非営利団体「ap bank」を立ち上げ、野外音楽イベント「ap bank fes」の実施のほか、東日本大震災後は復興支援活動に従事し、芸術祭「Reborn-Art Festival」を立ち上げるなど、様々な活動を行なっている。エネルギーと食の循環を体現できる「KURKKU FIELDS」を始めるなど、サステナブルな社会への取り組みにいち早く先鞭をつけてきた総合プロデューサーである。

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