ストーリー

「100年後の未来はこうなるだろうな」、「自分だったらこうしたいな」、そんな風に想像することもアート活動だと思うんです。

2023.10.24 | 千葉県

インタビュー

千葉県誕生150周年記念事業 百年後芸術祭 クリエイティブディレクター 大木 秀晃

———「百年後芸術祭」に関わることになった経緯を教えてください

僕はこれまで広告の仕事をメインに携わってきました。コンセプトから関わり、どうコミュニケーションするのか、アウトプットなどのクリエイティブ部分まで一貫して作っていくということをやってきました。「百年後芸術祭」のクリエイティブディレクターとして参加することになった経緯は小林武史さんから相談があったからなのですが、もっと前に遡ると、同じく小林さんが手がけていた東京・代々木にあった商業施設「代々木VILLAGE by kurkku」を2020年末にクローズする際に、どんな風に終わらせるか、というところをコンセプトから一緒に携わらせてもらったんですね。その流れもあって相談を受けた感じです。

千葉で芸術祭をやると聞いてまず思ったことは、世の中には芸術祭はたくさんもあるし、現時点で最後発の芸術祭になるので、新たにまた一つ芸術祭を増やす意味ってなんだろうというところから考えました。また、地方型の芸術祭は、旅情を感じるような、旅も含めて楽しんでもらうということが一つの推しになっていると思うのですが、千葉県は東京の隣なのでそこまで旅情を感じる、というものではないですよね。千葉で芸術祭を開催する意義や意味を明確にする必要性があるということも感じました。

「百年後を考える誰もが参加できる芸術祭」というのはそんな議論から生まれたコンセプトです。これならやる意義があるかもしれない、と小林さんをはじめとするメンバーたちが共感し合った瞬間がありましたね。

僕はコンセプトって育っていくものだと思っていて、憲法みたいに絶対守らなきゃいけないものではなく、そのコンセプトをみんなが聞いたときに、それぞれが考えて解釈するものが機能するコンセプトだと思っているんです。なので、誰もが関われる芸術祭にするには、タイトル自体が誰が聞いても反応できるもの、解釈して、想像し、アウトプットすることができるものであるべきだと思いました。「100年後の未来はこうなるだろうな」、「自分だったらこうしたいな」、そんな風に想像することもアート活動だと思うんです。芸術祭に参加できなかったとしても「百年後芸術祭」と聞いただけで何かを想像してもらえたら、そんな想いを込めています。

この自分なりに解釈してアウトプットに変えられるという「百年後芸術祭」のコンセプトは、Butterfly Studioのメンバーをはじめ、千葉の行政の方々も含めたコアメンバーを巻き込んでいく上でもとても重要だと思っていて、当初は小林さんと僕でブレストして始まったことが、次第に数人、数十人というメンバーになり、今後さらにメンバーが増えていった時に、「自分が関わるとしたらどんな風に表現できるだろう」と、意欲をそそるコンセプトにもなっているんです。これは僕の経験則上ですが、自分事になりにくいコンセプトの場合はどうしても受け身になってしまったり、参加する目的を見出しにくくなってしまうんです。でも、このコンセプトであることで、「だったらこうしよう!」と、みんながそれぞれのプロフェッショナルの領域で想像してもらえるというメリットがありました。もちろんたくさんのお客さんに参加してもらうことが最終目的なんですけど、そのもっと手前の、「仲間を増やしていく」という部分でも機能していることを感じています。

———en Live Art Performance制作チーム「Butterfly Studio」発足の経緯は?

Butterfly Studioは、「百年後芸術祭」を作り上げていくブレストの中から出てきました。「バンドのような形態」と言ったのはもちろん小林さんなのですが、芸術祭を新しく作る意味として、サステナブルな仕組みや新たなプラットフォームをこの芸術祭が担えるんじゃないかという話が出てきて、じゃあ未来をつくるプラットフォームってなんなのかを議論しました。

僕らがふだんクリエイティブに携わっているなかで、社会的にクリエイティブを継続的に発展させていく仕組みというのがあまりないよねという話になったんです。社会的な基盤としてクリエイティブが発展できるような場になればという想いがButterfly Studioのベースにあります。

極端なことを言えば、一握りの人しかアートやクリエイティブに携われないということではなく、一億総クリエイターであると。表現することって本来誰でもやれることだし、やっていいことなんですよね。もっとみんなが秘めている才能を世の中に表現できる場所があったらいいし、評価されたり、もっと活動を継続できるような、そういう仕組みを作りたかった。そのプラットフォームを「百年後芸術祭」というアウトプットを通じて実現できないかということでButterfly Studioは生まれました。「百年後芸術祭」のコアを作るメンバーとしてさまざまなジャンルの表現者が集まってくれています。

———芸術祭を作り上げていく中で苦労されている点、課題だと感じることがあれば教えてください。

誰もが関わることができること、いろんな人を巻き込んで参加してもらうことと「アート」の境界線って常にせめぎ合ってると思っていて、そうするとアートとは何か? という深い話になってしまうんですけど、その問いって、結構いろんなレベルで存在していると思うんです。アートや表現することは誰もができることでもありつつ、そのすべてをアートと呼んでいいのかどうかということは、人にもよりますし、さまざまな角度で捉え方があるじゃないですか。

今自分たちが作っているものが、新しい表現の形を目指しているのだけれど、それが果たしてアートと言えるのかどうか。エンターテイメントの要素も入っているし、テクノロジーの要素も入っているし、もちろんアートの要素も入っているんですけど、それがどんな融合をしていくと“芸術表現”に至るのか、というところは難しくもあり、常に意識しながら作っています。

いわゆる現代アートというのはとても領域が狭いですよね。en Live Art Performanceで表現するものは、それよりはもっとオープンで、関わりやすく、参加しやすいものであるべきだと思ったので、百年後がこうあってほしいという一つのかたちを、表現する側と観る側が溶け込んでいくようなものにしたいと考えています。

今関わっているみんなが感じていると思うのですが、さまざまなクリエイティブの領域が融合しているので、それぞれの立場、分野から見えてなかったことが、化学反応を起こしている感じが日に日に見えてきていて面白いです。もちろんそういう設計をしながら進めてはいるんですけど、実際に混ぜてみたときに起こる化学反応は日々更新されていて、それが全部融合するのが初回公演なので、そこでまた気づくこと、感じることがたぶんそれぞれにあって、それを今後もっと磨き上げていけたらと思っています。

2023年9月30日、千葉県市原市の上総いちはら国府祭り会場で「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」のオープニングイベントとして「en Live Art Performance」の初公演が披露された。

———en Live Art Performanceを制作する中で、大木さんが見どころだと感じる点は?

僕と小林さんの中で、伝えたいメッセージをどう伝えるか、言葉と音楽のバランスはどうあるべきかということにだいぶこだわりました。また、ダンスパフォーマンスとドローンをどう共存させるか、映像とダンスの共存も含めて、観客側が見たときの視覚情報のバランスにはとても気を遣いました。

舞台構成自体がすごく立体的ですし、視野角も広く、五感のすべてで感じながら体験してもらうことになるので、映像を見るとか、音楽を聞くとか、舞台を見るということ以上に、今までにない感じ方をしていただけると思います。

———100年後、どんな世界になっていると思いますか?また、どんな未来を望みますか?

いろいろ望むことはありますが、やはりアーティストや表現する人がもっと増えていたり、見る側と表現する側の区別がなくなっていくということが実現できているといいですね。もう一つ、それに近いことかもしれないのですが、肩書きや役割、職業みたいなことと個人がもっと自由になっている世界を今からイメージします。

僕は昔、「I am not a photographer.」という写真展をやったことがあるのですが、それは、僕は写真家という肩書きはないけれども、だからといって写真展をやっちゃいけないのか? という疑問が生じたことから発想したんです。肩書きや役職を越えて活動している人は今でこそだいぶ増えましたが、それがもっと普通になっていくといいなと感じています。それこそテクノロジーがその手助けしてくれるかもしれないし、そういうものが発達すれば社会制度も変わっていくかもしれない、そうなってくれば個人がもっと自由に考えて表現できるようになっていくだろうと思うんです。

———この芸術祭が日本の社会やカルチャーシーンにどのような影響があることを期待されますか?

まだ始まったばかりですが、嬉しかったことのハイライトとして、いわゆる企業や行政の方が、「自分たちにも100年後って関係ありますよね、そういう参加の仕方もありですか?」と言ってくださるんです。未来の社会を作っていく中で、企業や行政の影響力は大きいわけですから、そういった立場の方々が100年後を考え、それを実行し始めたとしたらそれこそ社会が変わるきっかけになりますよね。アートに興味がある人だけじゃなくて、むしろそうじゃない人たちを含めて、「百年後芸術祭」が何かを考えるきっかけになることを期待しています。

ー「百年後芸術祭」に期待していることは?

en Live Art Performanceがどうなっていくのかは、自分も含めて楽しみにしていることですが、来年の春にはまさに「百年後を考える」というコンセプトに対してアーティストたちがアンサーを出してくれます。どういう解釈をして、どういう表現をするのか、それはとても楽しみです。「百年後芸術祭」という言葉を聞いて、少しでも100年後のことを考えたのであればぜひ足を運んでみてください。いろんな人が想う100年後が千葉に集まりますので、ぜひ自分の考える100年後とアーティストが考える100年後を一緒に見てもらえると楽しめると思います。

edit & text :Kana Yokota

大木 秀晃

クリエイティブディレクター/株式会社OOAA代表。大分県日出町生まれ。大学ではメディアと空間デザインを専攻し、博報堂ケトルを経て、2020年OOAA設立。 鋭いコンセプトワークと多彩なアウトプットで、JAAA新人賞、TCC賞、ACCグランプリ、総務大臣賞、カンヌ広告祭審査員など。オバマ大統領就任の日の写真集「THIS DAY」や、動物の求愛図鑑「ACT OF LOVE」、コミュニティFM「渋谷のラジオ」創設メンバー、TOKYO2020のオンラインイベント「わっさい」クリエイティブディレクターなど。

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