ストーリー

参加アーティストのインタビューや、アート・食・音楽に関する対談の様子、芸術祭のめぐり方やアート作品のご紹介など、百年後芸術祭にまつわるストーリーをお届けします。

アートやそれに関わる方々とのご縁が君津市の新たな財産となり、それが未来へとつながるよう取り組んでいきたい。

君津市

2024.04.24

アートやそれに関わる方々とのご縁が君津市の新たな財産となり、それが未来へとつながるよう取り組んでいきたい。

君津市長 石井宏子 ---------百年後芸術祭に参加するに至った経緯についてお聞かせください。 千葉県の150周年事業として、当初、千葉県と市原市、小林武史さんの三者でお話しを進めていたところに、近隣の君津市、木更津市、富津市、袖ケ浦市の4市も一緒に取り組もうとお話しをいただきました。内房総5市でそれぞれが持つ魅力や歴史、文化を、アート作品として表現する。これは市民にとってもシビックプライドを高めるきっかけになり、改めてこの地域の良さを感じていただくきっかけにもなると考えています。 100年後に思いを馳せ、参加者と一緒に100年後を創っていくというコンセプトは、本市が総合計画で掲げる「ひとが輝き 幸せつなぐ きみつ」にも通じると思っています。先人たちが「未来のために今できること」を積み上げ、それを受け継いできたからあるこの地域を、100年後に向けてもっと輝かせ、つないでいくための取り組みの1つがこの芸術祭。この芸術祭をきっかけに来場者と君津がつながり、新たなご縁が生まれ広がっていくことに、とてもワクワクしています。 ---------内房総5市の魅力や可能性をどのようなところに見出されていますか? この内房総地区というのは、東京湾アクアラインの開通により都心へのアクセスが大変良いというところはありますが、改めて最近思うのは緑と都市が絶妙に融合した地域であり、生活するうえで、大変魅力のある場所だということです。各市でさまざまな産業や文化があります。本市で言えば、やはり昭和40年代に立地した日本製鉄さんですが、湾岸部に立地する大手企業の工場群がこの地域の大きな特徴です。君津市は、里山、湖など豊かな自然が残りながらも、一方で企業城下町として整然と区画された市街地が広がっており、生活しやすい環境が整っています。 また、全国各地から様々な文化を持った方々が工場勤務のために移住してきました。当時では多様性の最先端であったのではないかと思うのですが、そのこともこの地域の魅力ではないでしょうか。 君津市庁舎からの眺め ---------製鉄所さんのお話も出ましたが、今回、君津市ではその製鉄所の文化に関連した作品も展示されています。アート作品展示に期待することを教えてください。 保良雄さんのアート作品の展示場所としてお借りしている吉川工業さんの社宅跡や、さわひらきさんのアート作品展示場所である旧内箕輪保育園は、鉄鋼関連企業の進出に伴う人口増に対応するために作られた施設であり、これまでの君津市の発展とともに歩んできて、今は役割を終えた場所でもあります。アート作家さん達には、君津市のこうした場所や歴史に興味をもっていただき、これまでの準備期間では色々な背景を学び、作品制作にあたっていただきました。 保良雄《種まく人》が展示されている吉川工業 内箕輪社宅 さわひらき《Lost and Found》。令和5年3月まで子どもたちが通った旧内箕輪保育園の保育室と園庭を舞台に映像や彫刻などを交えたインスタレーションを展開。 「八重原公民館」では、深澤孝史による《鉄と海苔》、佐藤悠による《おはなしの森 君津》が展示されている。 アート作家さんがどのような切り口で君津市を見て表現するのか、独自の感性と君津市のこれまでの文化を掛け合わせる、融合させることで、君津市の新しい側面も見えてくるのかなとも思いますし、アート作品を見た市民の皆さんの新たな刺激になったり、さらに君津愛を深めてくれたらうれしいですね。また、今回のアートフェスは県内の小学生・中学生に無料パスポートを配布していますが、子どもたちにはぜひ、アート作品を見に来てほしいです。アート作品を実際に見て何かを感じていただければ、それがこれからの君津市の発展につながっていくのかなと思います。 ---------石井市長は君津市の魅力はどのようなところにあるとお考えですか。 利便性の面で都心へのアクセスなども魅力として挙げられますが、根本にあるのは、都市と自然の調和で、そこが君津市の大きな魅力ですね。市街地は先ほど申し上げた鉄鋼関連企業の進出により爆発的に人口が増加し、それに伴い住環境の整備も進んだことで生活のしやすい環境があります。また、平成の名水百選に選出されている「生きた水久留里」やこの銘水を生かした地酒づくり、昨今SNSで注目を集めた清水渓流広場、関東有数の雲海スポットである九十九谷展望広場など、地域には自然をもとにした資源がたくさんあります。 また、近年では君津市を水上スキーの聖地とすべく、千葉県のご協力をいただきながら郡ダムで水上スキーの実証実験も実施しています。昨年は、第69回桂宮杯全日本水上スキー選手権大会が開催されるなど、大学生を中心に全国から水上スキーヤーが君津市を訪れており、この関係人口というのは君津市の財産でもあります。今回のアートフェスを通じて、さらに様々な方とのつながり、関係人口・交流人口を増やしたいと思っています。 また、君津市は全国でも有数のカラーの産地です。君津市が発祥の「上総堀り」工法を利用した自噴井戸により、24時間365日、14から15度の安定した清流が小糸のカラーを育てているんです。水田に設置したパイプハウスの中は、清流が天然のエアコンとなり、夏は涼しく冬は暖かく保たれていて、化石燃料を使用しないエコな栽培です。房総の比較的温暖な気候もカラーの生育条件にピッタリなんですよ。春はミモザも小糸地区で栽培しています。そんなことも知って頂きながら、アートも観光も楽しんでいただきたいですね。 ---------100年後、どんな未来を望みますか? 100年後の君津市への想いは? これまでの100年も激動の時代でしたが、これからの100年はAIの発展をはじめ、予想できないほどにさまざまなことが進むでしょう。急激に変革していく時代が想定される中でも、これまで君津市に関わってきた方々が未来のために紡いできた歴史や文化を生かし、さらに良いものにして未来へつないでいくことが今を生きる我々の責任だと思っています。 今回の百年後芸術祭でも、アート作品やそれに関わる方々とのご縁が君津市の新たな財産となり、先の未来へつながっていくよう、全力で取り組んでいきたいと思います。 ---------最後に「百年後芸術祭」への期待をお聞かせください。 内房総5市で一体となって取り組むことは初めてで、千葉県内でもこれほどまでに広域で一つの事業に取り組むというのは例を見ないのではないかと思います。この芸術祭は1つの大きなチャレンジになりますが、この事業の成功が内房総地域のさらなる発展のきっかけになるとも考えています。今回の芸術祭という取り組みが、君津市にとって新たな1ページとなり、そして君津市民の皆さんにとっても、芸術に触れる機会となることで豊かな生活につながることを願っております。 Photo:Eri MasudaInterview & text :Kana Yokota 

フラム海苔ノリ通信 Vol.1

内房総アートフェス

2024.04.04

フラム海苔ノリ通信 Vol.1

アートディレクター・北川フラムが綴るコラムを定期的にお届けします。 槙原泰介「オン・ザ・コース」Photo by Osamu Nakamura -木更津市- ついさっきまで開いていたと思えるような町の本屋さん。その主人の人となりが思い浮かぶような店先を借りて、槙原泰介の干潟についての展示がある。地図や干潟についての写真や観察、干潟観察ツアーのポスター等々。木更津の干潟の一部は工場地帯に変化したけれども、したたかに残っているところもあって、作家はそこに変わらぬ関心をもっている。その混在した店内は一味も二味もあって、何気ない容器にはメダカが飼われている。合理一辺倒ではない町の店の大切さがあって嬉しい。これはこの内房総アートフェスのベースになる傑作だと思いました。豪雨のあとの雨あがり、その干潟巡りに行きたかったが、果たせなかった。残念。まだ4月13日(土)、4月28日(日)、5月11日(土)にあるのでお誘いです。この豪雨のせいで旧里見小学校(市原市)での「おにぎりのための運動会!」も中止。これも4月27日(土)と5月18日(土)にありますよ。 槙原泰介干潟ツアーの様子 EAT&ART TARO「おにぎりのための運動会!」(市原市)Photo by Osamu Nakamura 近くの倉庫に小谷元彦の「V (仮設のモニュメント5)」が不思議な迫力で鎮座しています。小谷の作品は、情報と物が溢れている現在の「神」が突如間違って登場したように感じられるものですが、それを支えている技術が見せ場になっています。 小谷元彦「V (仮設のモニュメント5)」Photo by Osamu Nakamrua -君津市- 八重原公民館は、京葉臨海工業地帯が出来始める約50年前から、多くの移住者が集まってきた団地の中にあり、今も盛んに活動しています。外に海苔が天日干しされているように見える、たくさんの瓦板が並べられていて、その鉄でできている海苔板を叩いて楽しんでいる人もいます。古い大判の写真も貼られていて、日本製鉄という世界有数の製鉄所がこの地に与えた影響を知ることができます。2万人を超える人が全国から集まってきました。深澤孝史は地域の聞き取りの上手な作家で、その時にもたらされた「マテバシイ」という植物が海苔作りに良くて、そのまま大切にされたという話を、公民館の中庭の池で見せてくれています。 佐藤悠「おはなしの森 君津」Photo by Osamu Nakamura この公民館の中央ロビーには佐藤悠が所狭しと面白い展示をしていますが、佐藤の本領は”お話しおじさん”です。人が集まれば、観衆とのやり取りを絵に描いていく、その会話の媒介は地域についての知識です。人はおのずとこの地に親しみをもっていくという仕掛けです。 さわひらき「Lost and Found」Photo by Osamu Nakamura 近くの保育園が楽しい作品になっていて、さわひらきによるものです。園庭に面して4つの教室がありますが、その教室に入っていくごとに、それぞのれの部屋が暗くなり、それぞれの物語が部屋の道具、映像、照明の動きによって語られるというもので、保育園がもっている明るい楽しさが感じられるというものです。 保良雄「種まく人」 そこから少し行ったアパート群の一つの入口からは4階に向かっての一部屋ずつを昇っていくと、人の居なくなった部屋に外部の土と植物が入り込み、成長していく仕掛けの作品に出会います。君津にある4作品からは、その年の一世紀の時間が感じられるようです。 -袖ケ浦市- ダダン・クリスタント「カクラ・クルクル・イン・チバ」 袖ケ浦の作品がある一帯は、班田収授の法があった頃からの古い土地で、田甫の広さは変わっていないような豊かな場所で、インドネシアのバリ島にある鳥よけの風を受けて鳴る楽しいダダン・クリスタントの作品「カクラ・クルクル・イン・チバ」が50基カタカタと音を立てています。近くにある販売所の果物・野菜は旨さ、値段ともに魅力的なのでお薦め。 大貫仁美「たぐり、よせる、よすが、かけら」Photo by Osamu Nakamura 資料館を巡る美しい池を囲んだ袖ケ浦公園巡りは人気がありますが、その中の2基の竪穴式住居と歴史的建造物の旧進藤家には、大貫仁美のガラスの断片を中心とした作品が設えられてあります。旧進藤家では、周辺の人たちとのワークショップでの成果もありますが金継のように繊維がガラス化したシルエットが美しい。 東弘一郎「未来井戸」 そこから降りた所にはモノづくりの名人・東弘一郎の上総掘りが見事に作られて圧倒されます。(近くにカブトムシのバイオスフェアもあります) キム・テボン「SKY EXCAVATER」Photo by Osamu Nakamura 江戸湾を囲んで房総半島には更級日記以来、古い歴史があります。鎌倉殿は房総と三崎半島の一衣帯水の世界を往来したし、里見氏の栄枯盛衰もある。江戸時代は池波正太郎の小説に出てくるような江戸前の旨い食物があったり、良くも悪くも江戸を補完する土地でもあり、幕末からは国防の拠点ともなりました。臨海工業地帯へと変化したあと、アクアラインが画期をつくります。その「アクアラインなるほど館」という名の施設にはキム・テボンが、そのシールド工法が宇宙船のコクピットのように感じられたらしく、迫力ある展示をしましたが、ここには60年代の丹下健三の「東京計画」などの計画が一瞥されていて近代日本を肌で感じられるようになっています。 -富津市- 五十嵐靖晃「網の道」(下洲漁港)Photo by Osamu Nakamura 富津は内房線特急の停まる君津駅の先にあり、富津岬を抱える太平洋の外洋と接するところ。今もって、下洲漁港には海苔漁業者がたくさん居る。五十嵐靖晃はそこに迫力ある美しい海苔網を設置しました。海苔網は水面下数cmほどに設置します。どんな海苔を採るかにより幅20cmほどのマスは異なります。採取時にはこれを水面上1m以上に持ち上げ、いわば海苔網の下を漁船がくぐり海苔を落として集めるのです。それを陸で体験するのが、この作品の楽しいミソです。もともと漁師さんは富津地区4漁協(青堀・青堀南部・新井・富津)に所属していましたが、埋立を前にして現在の場所に移住しました(もとの場所の陸にも網は設置されています)。 岩崎貴宏「カタボリズムの海」 武藤亜希子「海の森-A+M+A+M+O」Photo by Osamu Nakamura この埋立記念館は楽しい海苔採りを含めた江戸湾一帯のよくできた資料館ですが、そこの和室に岩崎貴宏が醤油の海を作り、そこに船のミニチュアを浮かべています。障子紙越しに射してくる光の変化が美しい。その向かいに武藤亜希子さんのアマモをテーマにした空間があり、遊べます。 中﨑透「沸々と 沸き立つ想い 民の庭」Photo by Osamu Nakamrua この建物の隣に富津公民館があり、この入口と二階を使って中﨑透による、”4人の住民の語りによる文物を編集した、地域の生活のリアリティ”ーー「沸々と 沸き立つ想い 民の庭」が楽しめます。地域を歩く。そこに残されている道具や看板、雑誌・資料を集める。そこに生きている生活者に丁寧にインタビューして纏める。そこに氏独特の色付きアクリル板と照明を挟んで編集するというサイトスペシフィックアートの方法を展開しています。ここでは館内のホールを出ての階段や通路も使っていて、総合的な体験が可能です。 まずは第一報。 北川フラム