ストーリー

参加アーティストのインタビューや、アート・食・音楽に関する対談の様子、芸術祭のめぐり方やアート作品のご紹介など、百年後芸術祭にまつわるストーリーをお届けします。

百年先の未来を想いながら、食をみんなで分かち合うことの喜びに触れる。「百宴〜Prologue〜」レポート。

木更津市

2023.12.25

百年先の未来を想いながら、食をみんなで分かち合うことの喜びに触れる。「百宴〜Prologue〜」レポート。

11月5日(日)に開催された「百年後芸術祭 EN NICHI BA Special  百宴〜Prologue〜」。このイベントは、KURKKU FIELDSのレストラン「perus(ペルース)」の山名シェフが、この土地で採れた恵みを「分かち合う」ことを通して、参加者と共に未来に思いを馳せる時間を形作りたいという想いから企画されました。 “生きることは食べること。「食」は私たちの身近な楽しみであり、喜び。しかし気候変動が進み、日常が確実に変化している今、私たちがどのような食材を選択し、食べ、生きていくのか。今まで通りの暮らしで100年先の豊かな未来を創造できるのか。一度立ち止まり、想像してみる時間が必要かもしれません。「食べる」という行為が自然環境を破壊するのではなく、今よりも豊かな自然環境を育むことに繋がればー。” そんな山名シェフの想いが込められた百宴に参加したのは30名。友人同士や家族での参加など、年代もさまざまな人同士が集まりました。 案内人を務めるのはKURKKU FIELDSのスタッフの佐藤剛さん。 「百宴という名前の由来は、100人以上のたくさんの方々とこの時間を共にできたらという想いがあるのですが、初回はそこまでの規模ではなくこの30名のみなさんで、100年後を考えながら過ごせたらと思っています。100年後を考えるということは、誰かのことを考えるということでもあると思います」。 続いて、企画者である山名新貴シェフからの挨拶です。 「僕はふだん、cocoonのperusという宿泊者限定のレストランでシェフをしていますが、今日は外に出て、木更津の風土を感じていただきながらおいしい食事をみなさんで分かち合うことができたらと思っています。100年後に向けて、一人一人、残したいものや感じることは違うと思いますが、思いは違えど、今回は『分かち合う』というテーマのもとお肉や魚といったお料理、そして環境、ここで過ごす時間、感じることを分かち合いたいと思っています」 まずは、火を燃やすための枝や枯れ葉を集めることからスタートです。意外と燃えやすそうな枝を探すのは簡単ではないことを感じつつ、参加者の方々とワイワイ探し歩きます。そして、使わなくなった麻紐をほぐしたものと一緒に火に投げ込みます。 ライターで一瞬にして火をつけることはできるけれど、こうしてみんなで枝を集め、麻紐をほぐす作業を経ての点火は感慨深いものがあります。こんな風に自分で火を起こす体験は初めてだという人も数名いました。 そして次にKURKKU FIELDSの場内を探索しながらファームツアーに出かけます。 オーガニックファームで育っているオクラやパプリカ、マイクロキュウリなど、その場で齧りながら収穫します。みずみずしくて甘酸っぱいマイクロキュウリの美味しさにみんな感激しながら、先を進みます。ビニールハウスでは菜の花やかぶ、ラディッシュ、いんげんなどを収穫します。 エディブルガーデンにはたくさんの種類のハーブが育っています。レモングラス、ローズマリー、ミントなどフレッシュな香りを楽しみながら散策。エゴマの葉っぱを食べてみると、シャキッとしたフレッシュさと濃厚な味わいに驚きます。 水牛にもご対面! 日本では数えるほどしか飼育されていない水牛ですが、KURKKU FIELDSではなんと約30頭も飼育しています。この水牛のミルクで作られたモッツァレッラチーズはKURKKU FIELDSのシグネチャー的な商品でもあり、本場イタリアで研鑽を積んだチーズ職人・竹島英俊さんによってつくられています。 1時間程度のファームツアーを終えて、会場に戻ります。 ウェディングパーティーかのようにスタイリッシュにコーディネートされたロングテーブル。一人一人セッティングされたお品書きには、手書きで「分かち合う」と書かれていました。 ・風土〜Cooking in the Earth・生命力・薪火・山海の循環・矛盾の中で といった素敵な言葉もありました。(あとでメニュー名だったことに気づきます) 最初にいただいたのはウェルカムドリンク。お米を入れた木の器にはグレープフルーツをくり抜いてできたカップが。蓋を開けると、グレープフルーツの果実と米麹、ミルト、ハチミツを漬け込んだというドリンクでした。 「ミルトはイタリアのサルデーニャ島名産のハーブで、現地では葉を月桂樹の葉の感覚で料理の香りづけにしたり、実をリキュールに漬け込んだりするんですよ。和名は銀梅花(ギンバイカ)と言います」とは、perusでドリンクを担当している小高光さん。 みんなで乾杯!!甘酸っぱく、奥深い味わいでありながら香りでも楽しませてくれる不思議な感覚のドリンクでした。 みんなで収穫した採れたての野菜を蒸し焼きにしてくれたもの、具材たっぷりの農場のミネストローネ、グリル野菜の盛り合わせが食卓に並びます。「ちょっと小さいかな?」「このハーブはじめてみた!」なんて会話をしながら自分たちで収穫した野菜やハーブが目の前に調理されて供されるので、会話も弾みます。「これ食べますか?」「これ美味しいですよ!」そんな声がけもロングテーブルでの食事ならでは。 今回初めてKURKKU FIELDSにお目見えしたこちらの焼き場は、宿泊施設「TINY HOUSE VILLAGE」などを手がけた竹内友一さんによるもの。黒い鉄でできたスタイリッシュなこの焼き場は100人での宴もカバーできると言います。 千葉県鋸南町勝山の海でとれた真鯛の吊し焼き。ハーブと薪火キノコで香り付けされたポルチーニクリームソースといただきます。 薪火でじっくり焼いた猪肉のタリアータはKURKKU FIELDSのある木更津市矢那で生産された矢那栗のラム酒シロップ漬けとキャラメリゼした柿とともにいただきます。全粒粉のパンもさっくさくであとをひく美味しさ。 テーブルの上の食事がすっかりなくなるまで、心地よい風と会話を楽しみながら過ごしました。そろそろ宴の終わりです。 こんなにもたくさんの人と、一つのテーブルを囲んで食事をする体験はそんなにないので最初はドキドキしたのですが、みんなで共同作業をした後だったこともあり、楽しく話が弾んだことも印象的でした。大きな鍋でどっさりつくったスープや大きな塊の肉をみんなで分け合うという楽しさも、日常生活ではほとんど経験しないので、こんなにもあたたかい気持ちになるんだということも大きな気づきでした。美味しい食事が真ん中にあればみんな笑顔になる、ということも改めて実感。 そして、食事の後、竹など自然素材で作られた器は最後にキャンプファイヤーをして自然に還したり、料理で使った植物の種を未来へ向けて撒いたり、「循環」という言葉の意味をより実感できる体験も心に残りました。 百年後、私たちは生きてはいないけれど、今私たちが行動することの一つ一つが確実に未来に何かしら影響を与えるのだということを感じた一日。良くも悪くも。自然の営みの循環の中で私たちは生かされてきたのだから、自然が喜ぶことを私たちも返していかないといけない。そんな意識も高まりました。 <<参加された方のコメントもいただきました!>> 「千葉に住んでいるのですが、KURRKU FIELDSに来たのは初めてでした。こんなにも素晴らしい場所で、素晴らしい取り組みをされていることを知って驚きました。野菜も猪のお肉も美味しかったですし、参加して本当によかったです」 「Instagramでこのイベントを知って、私が理想とする世界観のイメージとぴったりだ! と思って参加しました。分かち合う、というテーマが素敵だったし、初めましてのみなさんと楽しく野菜を収穫したり、お食事をしたり、日々の生活でもこんな時間を過ごしたいなと思いました」 「保育士の仕事をしているのですが、子どもたちにも同じ体験をさせてあげたいなと感じました。自然の循環の仕組みもあらためて勉強したいです」 「また来たい!!」 最後に、山名シェフからはこんなコメントをいただきました。 「今日は、思い描いていたイメージ通りの時間をみなさんと共有できたと思います。食べるということはその前にも後にも大切なことがあります。料理人としてもそれは昔から感じていたことだったのですが、KURKKU FIELDSで働き始めてその思いがより深まりました。身体を動かして、自分たちで火をおこし、収穫するという体験が、参加者の方々により食べるという体験の奥深さを味わってもらえるものになっていたら嬉しいです。そもそも、今回このイベントをやろうと思ったきっかけは、コロナ禍でみんなが距離を置いて過ごさないといけなくなって、壁ができてしまったことでした。やっぱり人類って昔からお互いが協力しあって、分かち合って文明を築き上げてきたと思うので、そのことの大切さにたくさんの人が気づいたと思うんですよね。僕もその一人なのですが、分かち合うということを体験するのに食はわかりやすいと思うんです。身体にダイレクトに入ってきますからね。以前からなんとなくあった構想が、百年後芸術祭のテーマと合致して、今回開催できたことを嬉しく思っています。序章を経て、また来年春に向けてすでに準備を進めています。参加していただける人数を少しずつ増やしていって、いつか本当の百宴ができるように、僕らも体制を整えていきたいと思っています」 春の「百宴」もお楽しみに!! Text:Kana Yokota

「百年後、私もあなたもいない世界。そこに何を思うか」。11月5日(日)開催「en Live Art Performance」木更津公演レポート

木更津市

2023.12.08

「百年後、私もあなたもいない世界。そこに何を思うか」。11月5日(日)開催「en Live Art Performance」木更津公演レポート

「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」のオープニングイベントとして、千葉県市原市の上総更級公園にて初披露された「en Live Art Performance」が木更津のオーガニックファームKURKKU FIELDS で本公演として開催されました。 秋晴れの日曜日、開場の10時から来場者は徐々に増え、「en Live Art Performance」には約900人の方が来場されました。当日は、地域の食の魅力が集うマーケットイベント「EN NICHI BA」も同時開催。内房総5市の魅力的な食材を使った「SUN ファーム」や、「nana」、「1分おむすび」、など計26店が出店。 また、今回は、KURKKU FIELDSのレストラン「perus(ペルース)」の山名新貴シェフが、この土地で採れた恵みを「分かち合う」ことを通して、参加者と共に未来に思いを馳せるべく、ワークショップ型の食体験ができる「百宴~Prologue~」も同時に開催しました。 そして、夕方17時。空がオレンジとピンク色に染まり、肌寒くなってきた頃、KURKKU FIELDSのクリエイティブパークに設営された造形的な舞台にプロデューサーの小林武史さんが登場。 開催に際して小林さんは、 「過去からの縁、未来からくる縁を繋ぎ、これから百年後に向かって積み上げていこうという思い。わかりやすく“未来はこうだよ”ということではなく、観念的、抽象的な要素も含まれているかもしれないけれど、皆さんが思うこと、想像することでしか未来はないと思います。難解な部分もあるかもしれませんが楽しんでもらえるものとなっておりますので、ぜひ楽しんでいってください」 と観客に語り、ライブが幕を開けました。 「en Live Art Performance」は、小林武史総合プロデューサーが率いるクリエイター集団「Butterfly Studio」 による、音楽・映像・ダンス・光・テクノロジー(ドローン)を融合させたライブアートパフォーマンス。 本公演は、小林武史さんのピアノの演奏から始まりました。 King Gnuや大橋トリオなど様々なアーティストのMV出演や振付を担当しながら俳優としても活躍しているダンサーの高村月さんによるダンスパフォーマンスは、観客席まで降りるなど、縦横無尽に舞台を使い、音楽に合わせてエモーショナルな表現で観客を「en Live Art Performance」の世界に引き込みます。 続いて、KUMIさんによるポールダンスパフォーマンスは、光に照らされて、妖艶さと力強さが夜空と相まって神秘的な空気に包まれました。 高村月さんとKUMIさんの華やかな衣装デザインを手がけているのはコスチューム・アーティストのひびのこづえさん。「en=円」をイメージしたデザインの衣装はダンサーの二人が舞台を踊り回るたびに衣装の裾が円状にふわりと広がって目を奪われます。 そして、背後に流れる映像は映像作家の柿本ケンサクさんによるもの。自然災害、戦争、破壊、抗えない自然の脅威と人間の愚かな行為をイメージする世界中の映像が流れます。 そして、木々などの自然や畑に囲まれたKURKKU FIELDSの夜空に約500台のドローンが姿を現しました。 会場の後ろの方で静かに見守っていた子どもたちが、ドローンが現れた瞬間に歓喜の声を上げていました。映像は、人の生と死を感じさせるものから次第に生きる喜び、地球とともに生きることへの希望を呼び起こすものへと変わっていきます。 夜空に美しく光り輝くドローンを見上げながら、100年後はどんな世界になっているだろうと思いを馳せてみます。もちろん私自身はそこにはいないし、大きく何かを変えることはできない。ただ、この日、夜空に輝く光を笑顔で見つめていた子どもたちが、生きていく希望を失わない未来を、世の中を、つくっていくために今できることがあるかもしれない。 そんなことを思いながら、「en Live Art Performance」は静かに幕を閉じました。 百年後芸術祭らしい、自然とテクノロジーが入り組んだ臨場感あふれるこのステージ、次回は春の開催を予定しています。 Text:Kana Yokota

わきまえて、生きるー。「Kanji Kobayashi Presents Special Dining for 円都LIVE」レポート

木更津市

2023.11.08

わきまえて、生きるー。「Kanji Kobayashi Presents Special Dining for 円都LIVE」レポート

「百年後芸術祭」初となる「EN NICHI BA」が清々しい秋晴れの中開催 10月21日(土)、清々しい秋晴れで、日中は上着がいらないくらいの陽気のなか、未来の食を考え、体感するイベント「EN NICHI BA(エンニチバ)」がKURKKU FIELDSで開催されました。 当日は11時オープン。千葉で活躍されている農家さんや、レストラン、食品加工メーカーさんなど、15店舗の屋台がシャルキュトリー前の広場に並びました。ジャムやヴィーガンフード、ハチミツなど、美味しそうな商品を試食したり、はまぐりやおむすびを食べたり、夕方の「円都LIVE」を楽しみに来ているお客さんがテラス席や芝生の上でゆっくりとランチを楽しむ様子が見られました。 午後1時半、Special Diningの参加者はインフォメーションで受付開始。胸が高鳴ります。20名近くの参加者を前に、まずは「EN NICHI BA」のクリエイティブに関わるライフスタイリストの大田由香梨さんからご挨拶。  今回のこのイベントは、「百年後芸術祭」の一環として開催されたもので、「EN NICHI BA」とは、「縁日(ENNICHI)」、「市場(ICHIBA)」、「千葉(CHIBA)」 が融合した食と学びの新たな食体験の場なのだと教えてくれました。 「千葉県は山の幸、海の幸に恵まれた、豊かに受け継ぎ守られてきた食文化があります。この豊かな食文化を百年後にも伝えていきたい、そんな想いを込めて開催しました。今日は和歌山の『villa aida』のシェフ小林寛司さんによるお食事と円都LIVEをみなさんに楽しんでいただきますが、お食事の前に少しファームツアーにご案内したいと思います。このファームツアーに参加していただくにあたり、日常の感覚から少し離れていただきたいと思っています。私たちは日々、食べたいもの、欲しいものがスーパーですぐに手に入る環境で生きていて、パスタが食べたい、ハンバーグが食べたいとお料理から先に考えているかと思いますが、KURKKU FIELDSはそうではなく、今、畑で収穫できる旬な野菜、ここで育った鶏や猪、水牛のミルクでできたチーズなど、今ここにあるもの、風土にあったものからその日食べるものを発想します。それを私たちがどう身体に取り込むか、そんなことを思い、感じながら、ファームツアーを体験し、お食事を楽しんでいただけたらと思っています」(大田) そして、KURKKU FIELDSの農場長である伊藤雅史さんと循環の仕組みづくりを担当している吉田和哉さんにバトンタッチ。 「気持ちのいい秋晴れの日にようこそ!積極的に畑に入って、土を踏んで、匂いを嗅いでみてください」 通常、一般の来園者は入ることのできないオーガニックファームエリアを進んでいきます。10月、千葉県では収穫できる野菜が限られているそうですが、そんななかでも今年は暑さが続いたため、オクラやトマトなどの夏野菜がまだ収穫できるのだそう。可愛いマイクロきゅうりも発見しました! 夜になると猪が土の中の虫や微生物、どんぐりや栗などの食べ物を求めて入ってくるため、畑の電気柵は欠かせないと言います。ただ、今年の猛暑のせいでどんぐりが大きく育たず猪の食べ物が少なくなってしまったことが原因だと聞いて、可哀想な気持ちにもなります。野生の動物たちは、気候によっては日々食べるものの確保が困難になってしまうのです。 「実は先週の大風でとうもろこしが倒れてしまったんです。その時はアライグマが落ちたとうもろこしを食べてましたね。あとはオクラ、インゲン、トマト、マイクロキュウリ、カボチャなどが見つかるかと思います」。 広大な畑をゆっくりと歩きながら、次に向かったのは鶏舎。KURKKU FIELDSでは鶏たちを地面に放して飼育し、そこに隣接した運動場をつくることで鶏たちが自由に走り回れる環境を整えているといいます。本当に伸び伸びしていて居心地良さそう! 「美味しい餌と美味しい水、広々とした運動場など、鶏にストレスのない環境を作ってあげて、健康を維持できるように育てています。その代わりどうしても一個あたりのたまごの価格は高くなってしまうのですが、ここではいつも私たちが食べているたまごは鶏が産んでいて、その鶏はどんな環境で育っているのかを知ったり、想像してもらったり、そんなきっかけになればと思います」。 「すべてのものに神が宿る」。日本人固有のアニミズムを五感のすべてで感じる6皿のアート たった30分ほどのファームツアーでしたが、畑の中を歩くことに慣れていないせいか、じわりと汗をかくほど。午後2時、お腹も程よく空いてきて、Special Diningの会場である「フラック棟」に近づくと、炭火の香りが漂ってきました。 大きなお肉は千葉県の猪。これからみんなでいただくために、じっくりと時間をかけて火入れをしてくださっているのはKURKKU FIELDSの佐藤剛さん。 「今日は千葉の食材と、KURKKU FIELDSで育った食材でお料理を作りましたので、ぜひ楽しんでください」とは『villa aida』のシェフ小林寛司さん。 金木犀の香りのする梅ジュースをウェルカムドリンクにいただきながら、ゲストの名前が呼ばれるまでの少しの時間を秋風とともに楽しみます。 そして、通されたお部屋は、白を基調としたテーブルセッティングが見事なパーティー会場。オリーブや丸太のトレーなど、グリーンとウッディなアクセントがとても洗練されていて、ライフスタイリストとして活躍されている大田さんのセンスが光ります。 こちらのフラック棟も一般には開放されていない場所。草間彌生さんやアニッシュ・カプーアなどアート好きにはたまらない人気作家の作品が飾られていて、まさにスペシャルな空間です。 一人一人、自分の名前が書かれた席に着席し、いよいよSpecial Diningスタート。コース名は「ANIMISM」と書かれています。 「ファームツアーでは、まさに今の“実り”を見ていただけたのではないかと思います。そして、ここ最近は気候変動もあり、地球が私たちに強いメッセージをくれていると思うのですが、畑の中でもそういった自然との会話ができたのではないでしょうか。今回のお料理のコース名は『ANIMISM』です。アニミズムとは、自然界には霊魂のような存在があるとする、自然信仰を意味する言葉です。日本人は縄文時代の頃から、風、雷、雨、木、石、大地など自然界のすべてのものに神が宿っていると信じていた民族です。海外に行って日本に帰ってくると特に感じるのですが、アニミズムという信仰心こそが、食の多様性や可能性を豊かにしていると思うんです。特に千葉は海に囲まれていて、農作物も海産物もとても豊かです。100年前、それ以上前の方々が種を植え、自然を繋いできてくれたからこそ今目の前にある食材をいただくことができる。そんな感謝の心でお料理を楽しんでいただけたらと思います」 最初にいただいたのは、摘果したグレープフルーツをくり抜いた中に、ケールと猪や鹿の骨や肉からとったコンソメとケールを和えたスープ。清々しいグリーンとマイクロキュウリの花がまず目を楽しませてくれて、中のあたたかいスープで緊張を解きほぐしてくれる。そんなホッとする一品です。 <広く深く> 次は、ジャガイモと自然薯に玉ねぎと白ワインのフォームを和えたもの。甘いじゃがいものピュレと、粘りのあるなめらかな食感の自然薯とふんわりとしたフォームが口の中で混じり合い、広く深く、というメニュー名通り、土の中で育まれてきた大地の広さや力強さを感じます。やさしい。。 <明瞭、歴然> そして次は、バターナッツのスープです。大きめのお皿にたっぷり。甘さとコクのあるバターナッツですが、bocciのピーナッツペーストのムースと塩ゆでのおおまさりとともに絡めながらいただいていると、あっというまにお皿の底が見えてしまいました。千葉といえば落花生ですが、こうしてムースにしていただくとまた違った楽しみ方ができるという発見も。バターナッツとの相性も抜群です。美味しい野菜って、スープにしてたっぷりいただくのが一番満たされるし、贅沢なのではないかと思わせてくれました。 <身近な自然で食を整え> 4皿目は、麦のリゾットと色とりどりの温野菜。まさにさっきファームツアーで出会ったマイクロキュウリやオクラの登場です。カブや大根もちらり。シャキシャキとした歯ごたえと野菜そのものの甘みを楽しみながら、下に隠れた麦のリゾットとともにいただきます。身近な自然、まさにKURKKU FIELDSの恵みがたっぷりつまった一品。何度も何度も食感と野菜同士のハーモニーを味わえる、パーティーのように楽しい一皿でした。 <風土と共に> あたたかいメニューが続き、すでに身も心もほぐれてほどよく満たされてきた頃、5皿目の登場です。外で炭火で焼いてくださっていた千葉県の猪肉と蓮根のラビオリ、そして焼き大根がお皿の上でアーティスティックに盛り付けられています。弾力のある食べ応えのある猪はコクのある赤ワインソースと好相性。シャキシャキとした蓮根の歯ごたえともっちり食感がやみつきになるラビオリ、香ばしい大根。添えられたオリーブのサブレや、シナモンリーフの香り、ローズマリーといったハーブの心地よい香りを楽しみながらいただく一皿は、自然に抗うことなく、力強く、ていねいに生きること、大地に感謝しながら生きることを教えてくれる、素晴らしいお料理でした。 <わきまえて生きる> そして、最後の6皿目はいちじくと椎茸を使ったデザート。いちじくの葉のミルクアイスとイチジク煮、そしてKURKKU FIELDSのチーズ職人 竹島さんのチーズ、生椎茸をスライスしたものを一緒にいただきます。いちじくの葉っぱをミルクに漬け込み香り付けしたアイスはさっぱりしつつもいちじくの香りがふわりと広がる上品な味わい。いちじく煮は千葉県香取郡にある酒蔵「寺田本家」さんの少し甘味のあるお酒に浸けた後、オーブンでキャラメル状に焼き上げたもの。ほんのりと秋の香りを運んでくれる生椎茸といちじくの新鮮なマリアージュに感動を覚えた一皿でした。そこにある旬のものを、美味しくいただくこと。私たちは自然の一部であり、自然に生かされていることをわきまえる。そんなメッセージなのかな、なんて想像しながら至福の時間を味わいました。 食事の後半には、円都LIVEに出演予定のチェリスト、四家卯大さんが演奏をしてくださるというサプライズも。バッハ 無伴奏チェロ組曲 第1番「プレリュード」にはじまり、パブロ・カザルス「鳥の歌」、サン・サーンス「白鳥」などチェロの名曲を奏でてくれました。「チェロにも神様が宿っていると思う」。そんなお話を四家さんがしてくれたことで、供される食事、サービス、この空間のすべてにも神様の存在を感じて、崇高なひと時となりました。 シェフのパートナーであるソムリエの小林有已さんによるワインのペアリングも料理や素材の美味しさを引き立てる素晴らしいセレクトで、気づけば5〜6杯飲んでいました。 「私は料理を作ることが好きなんですけど、いつも辛味とか香りにこだわってしまって。今日のシェフのお料理は素材のおいしさを前面に感じられるもので、すごく感動しました」 そんな参加者の感想を最後に、神がかった夢のような時間は幕を閉じました。 「大人数で食べる料理をつくるのが得意ではないので、予定より人数を絞って開催して良かったなと感じています。KURKKU FIELDSには何度も来ているので、食材もスタッフのみんなも知っているしやりやすかったですね。今回は百年後芸術祭の一環としたイベントということで、メニューの一皿一皿に僕なりのメッセージを込めてみました。アートや映画と一緒で観た人に委ねる感覚で、食べてくださるみなさんに委ねました」とは小林寛司さん。 「百年後芸術祭初のEN NICHI BA、スペシャルダイニングイベントを無事開催することができました。寛司さんとご一緒してこの場をつくり上げる中で、“わきまえて生きる”というメッセージが自分の中で大きく響きました。通常であれば写真映えなど、刺激的な空間を求められることが多いのですが、今日は時間的にも食事が終わるのが夕暮れなので、夕陽が射した後にだんだん暗くなるように、心が落ち着く、整う、そんな環境づくりに徹しました」と大田由香梨さん。 外に出ると、ピンクとオレンジ、そして水色のグラデーションが空とKURKKU FIELDSの大地を彩っていて、心が洗われるような感動的な景色が広がっていました。「今日は日常の感覚から離れてみてほしい」。最初に大田さんが話されていましたが、この感覚を日常にしたい。自然とともに生きていることを毎日感じて生きていきたい。心からそう思える素晴らしい時間でした。感謝。 Photograper : Takahiro Kihara  Text:Kana Yokota

光輝く夜空の下、KURKKU FIELDSで開催された一夜限りの特別ライブ『円都LIVE(エントライブ)』レポート

木更津市

2023.11.08

光輝く夜空の下、KURKKU FIELDSで開催された一夜限りの特別ライブ『円都LIVE(エントライブ)』レポート

澄んだ空に冷たい風が心地よい秋の日。空が見事な夕焼けに染まった後に訪れるどこか夢見心地な日暮れのなか、圧巻の歌声が千葉県木更津市にあるオーガニックファームKURKKU FIELDSに響き渡った。 絞り出すようなハスキーボイス。ステージの上には、現在公開中の映画『キリエのうた』より登場したキリエ(vo.アイナ•ジ•エンド)が圧倒的な存在感を放っていた。 この「円都LIVE」は、「百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐」の一環として開催。岩井俊二監督と音楽プロデューサー小林武史による、『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』『キリエのうた』の音楽映画3作で生まれた楽曲が演奏される一夜限りのスペシャルライブだ。それぞれの作中に登場する歌姫、Chara演じるグリコ、Salyu演じるリリイ・シュシュ、アイナ•ジ•エンド演じるキリエ3人の歌声に、約2,500人が集まり酔いしれた。 バンドメンバーは⼩林武史を筆頭に、名越由貴夫、椎野恭⼀、キタダ マキ、四家卯⼤、カマタミズキがYEN TOWN BANDのコーラスに参加。映画『スワロウテイル』の架空都市「円都」の美術演出を務めた種⽥陽平が、本ライブの舞台美術に関わっているというのもファンにはたまらない内容だ。 また、「百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐」のメインイベントでもある「en Live Art Performance」と称した、音楽・映像・ダンス・光・テクノロジー(ドローン)を融合させたライブアートパフォーマンスで、これまでにない新たなライブを演出している。 オープニングを飾ったキリエ(vo.アイナ•ジ•エンド)は、映画の挿入歌である「ひとりが好き」「名前のない街」「ずるいよな」などを歌唱。「幻影」ではエモーショナルなダンスも交えたパフォーマンスを披露し観客を魅了した。 続いて、すっかり暗くなったステージに登場したのは、リリイ・シュシュ(vo.Salyu)。透き通る伸びやかな声で「飽和」「エロティック」「飛べない翼」「エーテル」、ラストに「グライド」を歌い、リリイ・シュシュ特有の世界観を表現した。 そして、YEN TOWN BANDのグリコ(vo.Chara)がステージに降臨。ローズピンクのドレスに淡いピンクのファーコートを羽織った佇まいと唯一無二な歌声はまさにグリコで、公開から27年たった今でも色褪せることなく私たちの前に現れた感動からか、会場はさらに熱を帯びる。 盛り上がりを見せるなか、「Sunday Park」「Mama’s alright」「上海ベイベ」などを歌唱。ステージの上から「岩井俊二いる〜!?」と言葉を投げかけたり、隣でピアノ演奏する小林武史に「なんか話してよ」と話をふったり、楽曲中にステージを降りたり、自由奔放な振る舞いで会場を沸かせた後、「She don’t care」のアウトロでキリエが再び登場しバトンタッチ。YEN TOWN BANDの音楽に合わせてキリエがダンスを披露した。 キリエの象徴でもあるカラー、ブルーのカーディガンを羽織ったキリエはそのまま楽曲「ヒカリに」に突入。暗闇に映えるブルーが彼女の透明感を引き立たせるなか、映画主題歌「キリエ・憐みの讃歌」を堂々と歌い上げた。 その最中、キリエが手を振り上げると、真っ黒な夜空に光り輝く無数のドローンが登場。満点の星空のような演出に、観客が一斉に空を仰ぐ。 いよいよクライマックス。「円都LIVE」のラストを飾るのはYEN TOWN BAND。「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」のメロディが会場に響き渡ると、歓声が湧き上がった。 バックハグで聞きいっている恋人たち、パパの肩車やママの抱っこでステージを夢中で覗く子供たち、微笑みあって音に身体を揺らす友人同士。ドローンの星空のもと、音を味わい、空間に酔いしれ、老若男女それぞれの心を震わせた「円都LIVE」。時を超えて今なお輝きを失わない音楽に奇跡を見た夜は、そうして幕をおろした。 小林武史 コメント「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「キリエのうた」、3作品の時間軸が離れている映画が一つに繋がった奇跡的な夜になりました。最高でした。 Chara コメント以前KURKKU FIELDSで(ライブを)やった時はコロナ禍ということもあり、規制があって声が出せなかったりと限られていましたが、今日は(規制がなく) 「アイナかわいい!」とか言えるし、それぞれの演出があってよかったです。Salyu コメント高校時代の憧れのヴォーカリストCharaさん、そして子供の頃に見た素晴らしい映画の独創的な世界観を作ったチームの最新作で本当に素晴らしいキリエちゃんを演じたアイナ・ジ・エンドさんを見て(「リリイ・シュシュのすべて」に参加していた)当時を思い出しました。長い時間軸の中に私もいさせていただいていることすごく光栄でした。アイナ・ジ・エンド コメント(ステージを終えてみて)死ぬ前の夢かな、実感がないです。ありがたいとしか言いようがないです。Charaさんの後にステージに出るのは足がガクガクで「帰りたい!」って一瞬なりました(笑)。小林さん、岩井さんをはじめすべての人に愛を教えてもらいました。岩井俊二 コメントこんな時がやってくるのかとなんか感無量としか言いようがないです。地道に頑張っていたら、こんなご褒美をもらえる日が来るんだなと思いました。 <観客コメント> 「多感な10代の頃に聞いて衝撃を受けた「あいのうた」。母となってから、愛の歌はすべて子どもに対しての思いに変換されていたのですが、スワロウテイルの「あいのうた」は、恋をしていた自分に戻る、本来の自分に戻る特別な歌だと、今回改めて思いました」(40代女性) 「映画『キリエのうた』を観て、楽しみに参加しました。岩井さんの映画はほとんど観ているのですが、どの作品も人間の光と影の両面を描かれていて、自分自身の青春時代と重なり合うようなシーンと小林武史さんの音楽が絶妙で大ファンです。そんな岩井さんの作品世界が夢のような舞台として実現するなんて本当に感動です!」(30代女性) 「自分の人生にこんなに素敵な瞬間が訪れるなんて、夢でも見ていたんじゃないか?と思うようなライブでした!ドローンの演出も素晴らしかったし、百年後芸術祭にふさわしいアーティスティックな一夜だったと思います」(40代女性) Photo by 岩澤高雄  Text:Mina Yoshioka

「百年後芸術祭」を通して各自治体の様々な取り組みが”オーガニック”につながるとともに、持続可能な地域づくりへのチャレンジを実現したい。

木更津市

2023.11.07

「百年後芸術祭」を通して各自治体の様々な取り組みが”オーガニック”につながるとともに、持続可能な地域づくりへのチャレンジを実現したい。

木更津市長 渡辺芳邦 ---------「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」開催の経緯をお聞かせください。 もともとは小林武史さんと市原市と千葉県の三者で話を進められていましたが、千葉県誕生150周年を記念した催しにしたいということで近隣市も一緒に開催できないかとお話をいただきました。そこで君津市、袖ケ浦市、富津市ともコミュニケーションを取り、5市で開催すればたくさんの方に内房総を見ていただけるだろうということで百年後芸術祭に加わりました。木更津市では、人と自然が調和した持続可能な「オーガニックなまちづくり」を進めています。そのような背景があることに加え、百年後芸術祭では環境を意識したものにしたいという意向もお聞きしていましたので、我々としてはその考えに賛同した側面もあります。その分、個人的には上総丘陵に位置する市町も含めて里山としての一体感を出しすなど、オーガニックの理念を盛り込みながら進められればという思いもありましたが、まずは5市で力を合わせていこうということになりました。 ---------「オーガニックなまちづくり」について、具体的な取り組みなどを教えてください。 そもそものきっかけは小林さんが木更津で始めた農業法人 耕す(現・KURKKU FIELDS)を見学したことです。私が市長に就任して間もない頃なので10年ほど前ですが、その頃の耕す農場では有機農業への取り組みを通じて自然が好きな方々が集まりネットワークを作っていました。そのような人と人とのつながりを見て、これからのまちづくりには「オーガニック」がキーワードになるのではないかと感じました。ここで言うオーガニックとは有機農業だけではなく、まちづくりを進める中で必要な様々な取り組みが有機的につながり、持続可能な地域を目指すことを意味する言葉として用いています。 当時の木更津はアクアラインの通行料金引き下げの効果によって活性化し始め、市内を訪れる方や移住者も増え始めていました。その影響で都市化への期待が高まっていたのですが、木更津が本来持つ価値を最大化して地域の魅力を高めていくには自然の豊かさを活かしていくべきだろうと考え、だからこそオーガニックというキーワードでまちづくりをしていこうと市の中で議論を進めていきました。そして2016年には具体的な理念をまとめた「オーガニックなまちづくり条例」を施行しています。現在のところ、例えば自然保護活動や農業振興、産業支援の取り組みなどを行い、食育計画の一環として、木更津市内のすべての公立小中学校の給食には市内で生産された有機栽培米を使うことなども精力的に進めています。また、干潟の見学やKURKKU FIELDSと連携した農業体験など環境教育も実施しています。これは海も山もある木更津市ならではのものだと言えます。 ---------渡辺市長は生まれも育ちも木更津市ですが、この地域の魅力はどんなところにあるとお考えでしょうか。 やはり自然は重要な魅力ですから、多くの人が自然に触れられるように市内の公園を再整備し、自然に触れ合う機会を増やしながら木更津らしい豊かさを感じてもらおうと考えています。例えば木更津駅から徒歩15分ほどの場所にある鳥居崎海浜公園では、海岸線に沿ったテラスの設置や地域の食材を取り扱う飲食店、海を眺めながら温泉を楽しめるホテルが入った複合施設の設立などを行いました。公園内にあるカフェは、夕陽と富士山を同時に見られる千葉県ならではの景色を眺めながらコーヒーを楽しむことができます。ぜひ多くの方にもこの素晴らしい景観を体感していただきたいですね。 2022年3月にリニューアルオープンした鳥居崎海浜公園。美しい夕陽を見ながら食事が楽しめる絶景スポット また、木更津は江戸時代から港町としての側面を持ち、江戸との海上交流が盛んでした。その関係でこの地域には歓楽街が形成され、江戸の文化や風習が入ってきて芸者文化も盛り上がりました。今でも木更津会館という芸者の育成や芸者の予約手配などを行う建物は残っていますし、実際に芸者を呼んで花柳界を体験することもできます。こうした伝統文化も木更津の魅力のひとつだと言えます。 木更津駅みなと口(西口)を出てみまち通りを進んだ先にある「木更津会館」 ---------木更津市では百年後芸術祭でどのようなイベント開催やアート作品の展示をしていく予定でしょうか。 10月21日(土)にKURKKU FIELDSで小林さんと映画監督の岩井俊二さんによる音楽映画の楽曲を披露する「円都LIVE」を開催します。また11月5日(日)には音楽や映像、ダンスやドローンなどを融合させた「en Live Art Performance」や、千葉の食材を屋台形式で味わえる「EN NICHI BA」を開催します。アート作品の展示は現在のところ検討を進めているところなので詳しいことはお話できないのですが、私たちとしては、木更津市の特徴である海と里山に関連したアート作品とともに、街中を歩いていただくきっかけになるようなものも常設できればと期待しています。 ---------100年後の木更津市がどのような地域になっていてもらいたいとお考えでしょうか。 日本では少子高齢化を筆頭に様々な課題があり、場所によっては今後消えて行ってしまう可能性のある自治体もあります。幸いにも木更津市は、この数年で若い世代の方の移住も増えているため人口が増加傾向にありますので、この先もいつまでもにぎやかで元気な街であってほしいと思っています。そのためにも、木更津らしい豊かさを維持し、東京近郊でありながら生活の中に自然が溶け込んだ暮らしができるようになっていかなければなりません。本日紹介したオーガニックなまちづくりという考え方は、そんな未来を見据えたものでもあります。 木更津市役所駅前庁舎から眺める木更津の街 ---------最後に、「百年後芸術祭」への期待をお聞かせください。 今回の開催地である他の自治体とは個別にコミュニケーションを取ることはありましたが、5市が一体となって何かを開催するということはありませんでした。千葉県には様々な可能性を秘めたコンテンツがありますから、私たちが力を合わせれば魅力的なアイデアを実現できると思っています。この百年後芸術祭をきっかけに多くの新しい取り組みにチャレンジしていきたいですね。もちろんそれなりの洗練さも必要ですから、無闇矢鱈と何にでも取り組むのではなく、それぞれがつながりながら統一感を持って進められるよう、ルールの設定が必要であることも忘れてはなりません。 また、木更津市としては、地域の中での経済循環を円滑にすることや、自然の豊かさをこれまで以上に市民生活と融合させていくことなどが課題だと考えています。これらを解決するヒントを百年後芸術祭を通じて得られることにも期待しています。 Photo:Eri Masuda Interview:Kana Yokota  text :Tomoya Kuga

「100年後の未来はこうなるだろうな」、「自分だったらこうしたいな」、そんな風に想像することもアート活動だと思うんです。

千葉県

2023.10.24

「100年後の未来はこうなるだろうな」、「自分だったらこうしたいな」、そんな風に想像することもアート活動だと思うんです。

千葉県誕生150周年記念事業 百年後芸術祭 クリエイティブディレクター 大木 秀晃 ---------「百年後芸術祭」に関わることになった経緯を教えてください 僕はこれまで広告の仕事をメインに携わってきました。コンセプトから関わり、どうコミュニケーションするのか、アウトプットなどのクリエイティブ部分まで一貫して作っていくということをやってきました。「百年後芸術祭」のクリエイティブディレクターとして参加することになった経緯は小林武史さんから相談があったからなのですが、もっと前に遡ると、同じく小林さんが手がけていた東京・代々木にあった商業施設「代々木VILLAGE by kurkku」を2020年末にクローズする際に、どんな風に終わらせるか、というところをコンセプトから一緒に携わらせてもらったんですね。その流れもあって相談を受けた感じです。 千葉で芸術祭をやると聞いてまず思ったことは、世の中には芸術祭はたくさんもあるし、現時点で最後発の芸術祭になるので、新たにまた一つ芸術祭を増やす意味ってなんだろうというところから考えました。また、地方型の芸術祭は、旅情を感じるような、旅も含めて楽しんでもらうということが一つの推しになっていると思うのですが、千葉県は東京の隣なのでそこまで旅情を感じる、というものではないですよね。千葉で芸術祭を開催する意義や意味を明確にする必要性があるということも感じました。 「百年後を考える誰もが参加できる芸術祭」というのはそんな議論から生まれたコンセプトです。これならやる意義があるかもしれない、と小林さんをはじめとするメンバーたちが共感し合った瞬間がありましたね。 僕はコンセプトって育っていくものだと思っていて、憲法みたいに絶対守らなきゃいけないものではなく、そのコンセプトをみんなが聞いたときに、それぞれが考えて解釈するものが機能するコンセプトだと思っているんです。なので、誰もが関われる芸術祭にするには、タイトル自体が誰が聞いても反応できるもの、解釈して、想像し、アウトプットすることができるものであるべきだと思いました。「100年後の未来はこうなるだろうな」、「自分だったらこうしたいな」、そんな風に想像することもアート活動だと思うんです。芸術祭に参加できなかったとしても「百年後芸術祭」と聞いただけで何かを想像してもらえたら、そんな想いを込めています。 この自分なりに解釈してアウトプットに変えられるという「百年後芸術祭」のコンセプトは、Butterfly Studioのメンバーをはじめ、千葉の行政の方々も含めたコアメンバーを巻き込んでいく上でもとても重要だと思っていて、当初は小林さんと僕でブレストして始まったことが、次第に数人、数十人というメンバーになり、今後さらにメンバーが増えていった時に、「自分が関わるとしたらどんな風に表現できるだろう」と、意欲をそそるコンセプトにもなっているんです。これは僕の経験則上ですが、自分事になりにくいコンセプトの場合はどうしても受け身になってしまったり、参加する目的を見出しにくくなってしまうんです。でも、このコンセプトであることで、「だったらこうしよう!」と、みんながそれぞれのプロフェッショナルの領域で想像してもらえるというメリットがありました。もちろんたくさんのお客さんに参加してもらうことが最終目的なんですけど、そのもっと手前の、「仲間を増やしていく」という部分でも機能していることを感じています。 ---------en Live Art Performance制作チーム「Butterfly Studio」発足の経緯は? Butterfly Studioは、「百年後芸術祭」を作り上げていくブレストの中から出てきました。「バンドのような形態」と言ったのはもちろん小林さんなのですが、芸術祭を新しく作る意味として、サステナブルな仕組みや新たなプラットフォームをこの芸術祭が担えるんじゃないかという話が出てきて、じゃあ未来をつくるプラットフォームってなんなのかを議論しました。 僕らがふだんクリエイティブに携わっているなかで、社会的にクリエイティブを継続的に発展させていく仕組みというのがあまりないよねという話になったんです。社会的な基盤としてクリエイティブが発展できるような場になればという想いがButterfly Studioのベースにあります。 極端なことを言えば、一握りの人しかアートやクリエイティブに携われないということではなく、一億総クリエイターであると。表現することって本来誰でもやれることだし、やっていいことなんですよね。もっとみんなが秘めている才能を世の中に表現できる場所があったらいいし、評価されたり、もっと活動を継続できるような、そういう仕組みを作りたかった。そのプラットフォームを「百年後芸術祭」というアウトプットを通じて実現できないかということでButterfly Studioは生まれました。「百年後芸術祭」のコアを作るメンバーとしてさまざまなジャンルの表現者が集まってくれています。 ---------芸術祭を作り上げていく中で苦労されている点、課題だと感じることがあれば教えてください。 誰もが関わることができること、いろんな人を巻き込んで参加してもらうことと「アート」の境界線って常にせめぎ合ってると思っていて、そうするとアートとは何か? という深い話になってしまうんですけど、その問いって、結構いろんなレベルで存在していると思うんです。アートや表現することは誰もができることでもありつつ、そのすべてをアートと呼んでいいのかどうかということは、人にもよりますし、さまざまな角度で捉え方があるじゃないですか。 今自分たちが作っているものが、新しい表現の形を目指しているのだけれど、それが果たしてアートと言えるのかどうか。エンターテイメントの要素も入っているし、テクノロジーの要素も入っているし、もちろんアートの要素も入っているんですけど、それがどんな融合をしていくと“芸術表現”に至るのか、というところは難しくもあり、常に意識しながら作っています。 いわゆる現代アートというのはとても領域が狭いですよね。en Live Art Performanceで表現するものは、それよりはもっとオープンで、関わりやすく、参加しやすいものであるべきだと思ったので、百年後がこうあってほしいという一つのかたちを、表現する側と観る側が溶け込んでいくようなものにしたいと考えています。 今関わっているみんなが感じていると思うのですが、さまざまなクリエイティブの領域が融合しているので、それぞれの立場、分野から見えてなかったことが、化学反応を起こしている感じが日に日に見えてきていて面白いです。もちろんそういう設計をしながら進めてはいるんですけど、実際に混ぜてみたときに起こる化学反応は日々更新されていて、それが全部融合するのが初回公演なので、そこでまた気づくこと、感じることがたぶんそれぞれにあって、それを今後もっと磨き上げていけたらと思っています。 2023年9月30日、千葉県市原市の上総いちはら国府祭り会場で「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」のオープニングイベントとして「en Live Art Performance」の初公演が披露された。 ---------en Live Art Performanceを制作する中で、大木さんが見どころだと感じる点は? 僕と小林さんの中で、伝えたいメッセージをどう伝えるか、言葉と音楽のバランスはどうあるべきかということにだいぶこだわりました。また、ダンスパフォーマンスとドローンをどう共存させるか、映像とダンスの共存も含めて、観客側が見たときの視覚情報のバランスにはとても気を遣いました。 舞台構成自体がすごく立体的ですし、視野角も広く、五感のすべてで感じながら体験してもらうことになるので、映像を見るとか、音楽を聞くとか、舞台を見るということ以上に、今までにない感じ方をしていただけると思います。 ---------100年後、どんな世界になっていると思いますか?また、どんな未来を望みますか? いろいろ望むことはありますが、やはりアーティストや表現する人がもっと増えていたり、見る側と表現する側の区別がなくなっていくということが実現できているといいですね。もう一つ、それに近いことかもしれないのですが、肩書きや役割、職業みたいなことと個人がもっと自由になっている世界を今からイメージします。 僕は昔、「I am not a photographer.」という写真展をやったことがあるのですが、それは、僕は写真家という肩書きはないけれども、だからといって写真展をやっちゃいけないのか? という疑問が生じたことから発想したんです。肩書きや役職を越えて活動している人は今でこそだいぶ増えましたが、それがもっと普通になっていくといいなと感じています。それこそテクノロジーがその手助けしてくれるかもしれないし、そういうものが発達すれば社会制度も変わっていくかもしれない、そうなってくれば個人がもっと自由に考えて表現できるようになっていくだろうと思うんです。 ---------この芸術祭が日本の社会やカルチャーシーンにどのような影響があることを期待されますか? まだ始まったばかりですが、嬉しかったことのハイライトとして、いわゆる企業や行政の方が、「自分たちにも100年後って関係ありますよね、そういう参加の仕方もありですか?」と言ってくださるんです。未来の社会を作っていく中で、企業や行政の影響力は大きいわけですから、そういった立場の方々が100年後を考え、それを実行し始めたとしたらそれこそ社会が変わるきっかけになりますよね。アートに興味がある人だけじゃなくて、むしろそうじゃない人たちを含めて、「百年後芸術祭」が何かを考えるきっかけになることを期待しています。 ー「百年後芸術祭」に期待していることは? en Live Art Performanceがどうなっていくのかは、自分も含めて楽しみにしていることですが、来年の春にはまさに「百年後を考える」というコンセプトに対してアーティストたちがアンサーを出してくれます。どういう解釈をして、どういう表現をするのか、それはとても楽しみです。「百年後芸術祭」という言葉を聞いて、少しでも100年後のことを考えたのであればぜひ足を運んでみてください。いろんな人が想う100年後が千葉に集まりますので、ぜひ自分の考える100年後とアーティストが考える100年後を一緒に見てもらえると楽しめると思います。 edit & text :Kana Yokota

アートの力で“諦めない地域”をつくり、地域住民に生きがいと誇りを抱いてもらいたい。

市原市

2023.10.06

アートの力で“諦めない地域”をつくり、地域住民に生きがいと誇りを抱いてもらいたい。

市原市長 小出譲治 ---------「百年後芸術祭」開催の経緯をお聞かせください。 まずは発端である「いちはらアート×ミックス」についてお話させてください。これは市原市で2014年から3年に1度のペースで開催しているもので、アートの力を通じて市が抱える人口減少や少子高齢化、若者の域外流出といった問題に相対する課題解決型の芸術祭です。 ただし、アートを通じて地域課題を解決するものではあるものの、第1回目はやや唐突にスタートした感がありました。また現代アートという誰もが明快に理解しやすいものではないカテゴリを扱っていることもあり、反対とまでは言いませんが、市全体でウエルカムという状態ではありませんでした。私自身は2015年から市長に就任したので本格的に携わり始めたのは第2回目からですが、その頃の市原市、特に南部地域では“このまま若い人たちがいなくなってもしかたがない”といった疲弊した雰囲気が漂っていました。このまま“諦めの地域”にはしたくないと思い、いちはらアート×ミックスの継続を決定したのです。 第1回目の反省点として市民の方々の関わりが少なかったところがありましたので、総合ディレクターの北川フラムさんともお話をさせていただき、第2回目以降はより市民が主体となって展開する芸術祭へとシフトチェンジしていきました。すると、年代問わず多くの地域住民の方々がボランティアとして運営業務や作品制作に携わってくださり、芸術祭を通して自分たちの役割を得られたという実感があったと話してくれる方も多くいました。さらに、以前は休日でも若い人たちを見かけることが稀だった南部地域でしたが、芸術祭開催期間が終わった後でも若者たちが歩く姿を見かけるようになりました。 © 2020 Ichihara Artmix Committee. 市原市を走るローカル列車「小湊鉄道」。いちはらアート×ミックスは旅気分でアートを楽しめる。 高滝湖の湖畔に建てられた市原湖畔美術館。 このように着実に地域活性化につながっていたいちはらアート×ミックスですが、今後の継続について考えていたところ、2021年の芸術祭に小林武史さんが訪れてくださりました。そうして小林さんとのご縁ができた後、千葉県誕生150周年記念事業として内房総の広域で芸術祭を開催したいという話が持ち上がりました。現在の熊谷俊人県知事とは、千葉市長の頃から色々な領域で連携をしたり情報共有をしたりしていましたので、県内で先進的にアートイベントを開催していた市原市にも注目して頂いていました。 ---------今回の「百年後芸術祭」は内房総5市(市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市)連携開催となります。従来の一市単独開催からの変化について教えてください。 観光に来た方は市境というものは考えませんよね。それを考慮すると、5市連携という大きな枠組みとなったことで滞在時間も増えるでしょうし、多くの人が関わることで自分たちが住む地域について新しい発見もあるでしょう。私が初めて市長になった時、近隣の首長にご挨拶に伺って「これからは都市間競争よりも広域連携です」と伝えて回りましたが、それが叶うことにワクワクしていますし、どれだけの相乗効果が発揮されるのかも楽しみです。一方で、これまで経験したことのない規模でのイベントですし、ましてやアートという言葉で簡単に説明できるものではないものを通じた連携でもあるので、どうやったら皆で同じ方向を向いていけるだろうかということは常に考えています。 市原市は百年後芸術祭のトップバッターとして、9月30日にイベントを開催します。今回は市内最大のお祭りである「上総いちはら国府祭り」とコラボレーションし、小林さんプロデュースのパフォーマンスも行われますので、多くの方に楽しんでいただけることを期待しています。 ---------いちはらアート×ミックスを通じて地域の活性化を感じているということですが、今後解決していきたい課題はありますか。 ひとつは宿泊機能があります。市原市はコンビナートと共に成長してきた地域なので、数年に一度コンビナートの定期修繕のために遠方から来る作業員の方々向けの民宿などは一定数ありますが、シティホテルやグレードの高いホテルは非常に少ない。だからホテルを誘致していきたいという思いはあります。 一方で、市原市の強みとアートを掛け合わせることができないかという思いもあります。例えば市原市には32クラブ33ヵ所のゴルフ場があり、その数は日本一です。そこで「ゴルフの街いちはら」として全国にアピールし、ゴルフの聖地にしようと動いています。実際、市のゴルフ環境に魅力を感じて他所から移り住んで自分たちのお子さんを育成しようとしている方もいますし、そうした保護者の方々が市原市ジュニアゴルフ協会を創設し、ジュニアゴルファーの育成や強化に力を入れてくれています。アートとの連携という点で重要なのは、競技面の発展だけでなく、ゴルフをプレーしない一般の方にもゴルフ場を開放してレストランを利用していただくといった試みも展開している点です。南北に長い市原市はレストランやトイレ休憩できる場所が少ないのですが、市の全域に点在するゴルフ場をゴルフ客以外も利用できるようにすることで、その悩みを解決できるのです。現時点ではすべてのゴルフ場を開放しているわけではありませんし、時間や人数の制約などもありますが、今回の芸術祭で訪れたお客さまにも利用していただければと思います。小林さんは「百年後芸術祭」では食に関する取り組みも力を入れると仰っていますが、ゴルフ場のレストランと連携することで市原市としても食に関する取り組みができる環境が整いつつあると言えるでしょう。 市原市内のゴルフ場には、ゴルフプレーヤー以外の人でも食事やお茶を提供してくれるゴルフ場がある。 ---------100年後の市原市がどのようになっているのか、イメージはありますか。 これだけ時代の流れが早い中で100年後の世の中を想像するのは非常に難しいことですが、今の世の中は、私が子どもだった頃に漫画を見て想像した未来都市のようになっていることを考えると、これから先とてつもない進化をしていくのでしょう。その中で100年後の市原市は、市原で生まれ育った子どもたちが健康に過ごして成長し、後世にいいものを継承していってもらい、誰もが幸せになれる街になっていて欲しいですね。 そんな未来に向けてこの芸術祭も継続していければと思います。そのためにも、今年の「百年後芸術祭」で県内全域に好影響を与え、千葉県全体がアートの県となる最初の一歩が歩めればと思います。 ---------「百年後芸術祭」に興味を持ってくださっている方にメッセージをお願いします。 市原市は色々な課題を抱えていますが、それでも決して諦めない地域にしたいと強く思っています。そのためには新しい何かが動き出した時に新しい行動も出てくることが大切です。今回で言えば、芸術祭が開催され、それに関連した活動に地域住民が取り組み、アートが日常に根付くことで生きがいや誇りに繋がっていくという形が理想的です。集客よりもむしろそれこそが芸術祭の目的だと思います。2014年から開催している「いちはらアート×ミックス」の場合、その頃に生まれた子どもたちにとってはすでに「市原市はアートの街」という印象があると思います。そのような意識を形成していけることを望んでいます。 text & photo:Tomoya Kuga