ストーリー

参加アーティストのインタビューや、アート・食・音楽に関する対談の様子、芸術祭のめぐり方やアート作品のご紹介など、百年後芸術祭にまつわるストーリーをお届けします。

ガイドブックを手に入れていざ内房総アートめぐりへ出発! 「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」作品鑑賞レポート<PART 1>木更津、君津、富津、袖ケ浦編(前編/木更津→君津→富津ルート)

内房総アートフェス

2024.04.24

ガイドブックを手に入れていざ内房総アートめぐりへ出発! 「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」作品鑑賞レポート<PART 1>木更津、君津、富津、袖ケ浦編(前編/木更津→君津→富津ルート)

内房総アートフェスのおすすめのめぐり方!まずはインフォメーションセンターへ いよいよ「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」アート作品の展示が始まりました。関東の桜は一気に咲いて一気に葉桜になってしまいましたが、気持ちの良い季節はこれから!芸術祭めぐりにぴったりのこの時期、何度も千葉に訪れてほしいという想いから、内房総アートフェスのおすすめのめぐり方や、おすすめの食事スポットなどを紹介したいと思います。 まずは、木更津、君津、富津、袖ケ浦の4エリアから前後編に分けてお届けします。「LIVE ART」として展示されるのは総勢77組による作品。観光名所も含めてすべての作品をゆっくり回ろうと思うと日帰りでは時間が足りません。気になるアート作品だけを目掛けていくも良し、それぞれの市に点在する作品を宝探しのように一つひとつ堪能するも良し、ひとまずはパスポートを購入すべく木更津駅東口にあるインフォメーションセンターへ! Tシャツやエコバッグなどの公式グッズもインフォメーションセンターで買うことができます。芸術祭めぐりはパンフレットや資料をもらうことが多く、クリアファイルを買っておくことをおすすめします。 パスポートを買うと、購入者特典として公式ガイドブックと公式マップももらうことができます。この時、スタッフの方におすすめの周り方や、休止中の作品情報など、いろいろと事前情報を確認しておくとスムーズです。 大きなマップを広げてどんなルートで回るかを決めます。車の場合は内房総アートフェス専用の駐車場が各所に用意されているので、そこに停めましょう。木更津駅周辺の数点の作品は徒歩で見て回ることができます。 作品鑑賞パスポートは作品ごとにスタンプを押せるようになっていて、自分で押す場所もあればスタッフの方に押してもらう場所もあります。スタンプラリーですべてのスタンプを集めると賞品をもらえるとのことでワクワクです。 木更津のインフォメーションセンターに展示されているのは増田セバスチャンの《Primal Pop》。原始的なポップさやいたずらごころをテーマにした作品は、懐かしさを感じるおもちゃやステッカーがぎゅっとひしめきあって新たなオブジェへと生まれ変わっています。かわいい。 次に向かったのは、1790年創業の砂糖や紙類などを販売していた「浜田屋」が所有していた趣のある「石蔵」。ガラリと木の扉を開けるとそこには巨大な女性のモニュメントが鎮座していました。 小谷元彦さんによる《V 〈仮説のモニュメント〉》は、約4,000年前の縄⽂時代の⼟偶『仮⾯の⼥神』と現代の⾁体を融合させる『仮設のモニュメント』シリーズのひとつ。「約1,300年前の奈良時代の半跏倚坐(はんかいざ)の⽉光菩薩像を像に重ね、過去から現代、未来の時間を凝結する」というコンセプトだそうで、初っ端から圧巻の彫刻に魅せられて心が躍ります。 石蔵から歩いてすぐの旧紅雲堂書店では、槙原泰介さんによる《オン・ザ・コース》という作品があります。築150年の木造建築の書店は、昨年末に閉店。営業当時のままの雰囲気を残しながら、東京湾に残る干潟をリサーチしてきた槙原さんが、木更津の広大な自然干潟に着目し、その風景や生物を題材とした映像作品を店内に展示。本棚に置かれた自然環境に関する書物を椅子に座ってゆっくり読むことも可能です。 内房総アートフェス会期中に数回開催される干潟へのツアー・トークもぜひ参加してみたい。 河岸を玄関口として栄えた木更津市は、かつて港付近まで浅瀬が広がっていたといいます。 旧木更津市役所があったという海の近くの倉庫には、梅田哲也さんの作品《上架》があります。中に入ると大きな木更津市の航空写真が迎えてくれます。この日は悪天候だったこともあって、丸い透明の照明がほのかに灯る空間は少し幻想的でした。 「船溜まりの一角に、使われなくなって久しいであろう船が積み重ねられていました。フジツボが船底にびっしり固着し、変色していることから、水上に放置された期間と、陸に引き上げられてからの経過が垣間見えます。この光景に触れた瞬間、単純に『いいな』と感じました。見ることしかできない船。実際には見られることすらなくなったような船ですが、じっくり観察するとそれは紛れもなく圧倒的な船でした」(梅田) ガイドブックに書かれた作家の梅田さんのコメントを読みながら、フジツボがびっしり固着した船を見ると、長い月日を経て自然に生まれたものではあるけれど、美しい彫刻作品のようにも見えてくるから不思議です。 閉業したガソリンスタンドから譲り受けたという丸いペンダントライトに少しずつ水を溜めて、その音に耳を傾ける。まるで海の底にいるかのような静謐な時間とともに、木更津は海とともに歴史を紡いできたまちなのだということを実感します。 晴れて風の音もない日に再訪したいと思いましたが、ゴーゴーと暴風の中の鑑賞も味わい深く、先鋭的な音響のアーティストとしても知られる梅田さんの作品を自然界の音とともに楽しめたことも良い経験でした。 受付には解体後に残されていたという木更津市役所の石看板を真っ二つにカットしたものが使用されていました。斬新! 房総半島のほぼ中央部に位置する自然と街が共生するまち、君津市へ さらに強い春の風が吹き荒れる中、君津市の八重原公民館へ移動。「木と水の館」をテーマに君津市産の杉を使用した木造の公民館は、地域の人々の集会所として、さまざまな講座や講演会、展示会などのスペースとして使用されているそうです。 早速目に飛び込んできたのは鉄でできた海苔!深澤孝史さんによる作品《鉄と海苔》です。鉄琴のようにバチを持って叩いてみると、キンコンカンコンと、なんとも良い音色を奏でることができます。楽しい。 海苔の養殖で栄えた君津市は、1961年の製鉄所稼働開始に合わせて漁業権が放棄され、北九州の八幡を筆頭に各地の製鉄所から2万人規模の労働者が移住したそうです。君津の風景は鉄と海苔なしでは語ることができない。そんな君津の歴史を想起させる作品が中にも展示されていました。 展示されたおはなしの絵を一枚一枚見ていくだけでそれぞれのストーリーが想像できて面白い。 中には、佐藤悠さんによる《おはなしの森 君津》も公開されています。一枚の絵を描きながら、その場にいる全員で即興の「おはなし」をつくるパフォーマンス「いちまいばなし」。「何がどうした?どうなった?」と参加者へ順番に続きを聞いていき、答えた内容を1枚の絵に描き足していく。「面白い『おはなし』は、既に参加者の中にある」とし、それらをひも解きながら取り出していく作品です。3人以上の希望者が集まれば、そこからパフォーマンスが始まる。といった内容。 パフォーマンスは会期中の土・日・祝日に開催(約15分、参加無料)とのことで、こちらもぜひ参加してみたいですね。 八重原公民館は施設自体がとても素敵で、図書スペース「かけはし文庫」も本をついつい読み耽ってしまう憩いの空間です。 そして、次に訪れたのは旧内箕輪保育園です。昨年まで実際に保育園として使用されていた場所で作品《Lost and Found》を展示するのはさわひらきさん。現実と虚構が織りなす幻想的な映像作品で知られている作家さんですが、今回は保育園を舞台にインスタレーションを展開。 入口を入って、一部屋ずつ順番にファンタジックな映像が流れるので、ぜひここはゆっくり時間をとって楽しんでもらいたいです。窓枠の角、教室の角、見逃してしまいそうな隙間にも作品が点在していますのでお見逃しなく。 そして、旧内箕輪保育園を見下ろす丘の上にある吉川工業内箕輪社宅へ。この日が悪天候だったこともあって、どんよりとした曇り空の下、ちょっと入りづらい雰囲気を醸し出しているここは、鉄鋼会社の社宅。保良雄さんによる《種まくひと》という作品が鑑賞できます。 鍵がかかっていない部屋を一室ずつ扉を開けて入っていくのですが、部屋の中にはみた事のない光景が広がっているので、ぜひドキドキしながら入ってみてください。 富津市の海沿いでは、地域住民が語る富津エピソードをじっくりと 木更津、君津を経てさらに南下し、富津市に入ります。南北約40km の海岸線の多くが自然海岸で、東京湾に突き出た富津岬が代表的です。向かった先は埋め立て地に建つ「富津公民館」。学習・交流・発表の場として親しまれる学習拠点でもあり、さまざまなイベントを開催する場でもあります。富津市民の成人式もここで行われるのだとか。ここで鑑賞できるのは、中﨑透さんの巡回型インスタレーション作品《沸々と 湧き立つ想い 民の庭》。 地域に所縁のある4名の方にインタビューを行い、富津の漁業や岬周辺の公園、海や街についての話を伺い、その言葉から引用した37のエピソードを会場内に配置し、エピソードとオブジェクト(制作した作品や備品、残置物を組み合わせたようなもの)を辿りながら富津にまつわる物語を体験するというもの。 作品数も圧巻ですが、一つひとつのエピソードから浮かび上がる富津市のイメージの断片を物語を読み進めるように鑑賞するスタイルが面白く、すべて鑑賞し終えるころには随分富津市のことを知ったような気持ちになる、そんな作品でした。 富津の人は映画を観るために船に乗って横浜にお出かけしていたようです。改めて地図を見ると、富津岬から横須賀までは本当に目と鼻の先! 富津埋立記念館 「富津公民館」のすぐ隣にある「富津埋立記念館」にも二つの作品があります。「富津埋立記念館」は、埋め立て以前に使用していた船などの貴重な漁業器具を展示しており、当時の漁業の様子を知ることができる施設。富津岬に江戸の守護として江戸時代より砲台が置かれていたことから、記念館の受付ホールの上部は、この砲台をモチーフに「砲台風」で設計されているのだとか。なるほど〜と思いながらエントランスを入るとなにやら香ばしい匂いが充満していることに気づきます。 「え、どこかで煮物炊いています?」というほどの違和感を覚えて進むと、そこには海苔で作られたジオラマが浮かぶ醤油の海の作品が。岩崎貴宏さんによる作品《カタボリズムの海》でした。 「遠浅の漁場で営まれてきた富津の漁業。埋め立てを機に漁場であった海はその姿を変えてきた。作家は内房総の海を巡り、土地が過ごしてきた時間と目の前に広がる光景への観察から生まれた作品を、さまざまな漁具・漁法を紹介する富津埋立記念館に設置」とガイドブックにありましたが、海苔のジオラマの繊細さとガラスのようにジオラマが映り込む漆黒の醤油の海の美しさに感動。 まさにこの富津という場所でしか創造されなかったであろう作品に胸を打たれました。醤油の匂いは本当に空腹を刺激します。 武藤亜紀子さんによる《海の森-A+M+A+M+O》は、富津干潟に広がる、海のゆりかごと呼ばれるアマモ場をイメージした作品。海の生き物の産卵場となり、生まれた稚魚や稚貝の生育場でもあるアマモ場の風景は、オーガンジーの布でたくさんの大きなアマモのパーツを縫い地域住民とともにつくり出しているそうです。会期中にもワークショップが開催され、アマモ場はより豊かになっていくとのこと。こちらもぜひ参加したいですね。 富津公民館と下洲漁港の2カ所に展示されているのは五十嵐靖晃さんの《網の道》。人々との協働を通じて、その土地の暮らしと自然とを美しく接続させ、景色をつくり変えるような表現活動を各地で展開されている作家さんです。 「およそ50年前に行われた埋立開発は海の風景・漁場、人々の営みを変えてきたが、ここ富津の海では、海苔漁が受け継がれ今の姿がある。この地で先代を含んだ漁師たちと協働で海苔網の道を編み、これからの50年に向けて50年前の志気を編みつなぐ。富津岬を挟んだ南北2つの網の道を歩き、水際の風景を眺めながら、地域社会の変容を体感すると共に、人と海の関係の100年後を想像してみる」 そんな五十嵐さんのコメントを読みながら《網の道》を眺め、人と海の100年後が今よりももっと優しい関係であることを願いました。 作品展示は17時までなので、3市をめぐり作品をみて回った怒涛の一日の終わりは富津岬までドライブ。岬先端の富津公園には、明治百年記念展望塔やジャンボプールなどがあります。惜しくもこの日、富津岬から富士山が見られませんでしたが、海辺で最高のトワイライトタイム! 日が落ちてしまいましたが、木更津にある作品で忘れてはいけないのが、SIDE COREの《dream house》。SIDE COREは公共空間におけるルールを紐解き、思考の転換、隙間への介入、表現やアクションの拡張を目的に、ストリートカルチャーを切り口として「都市空間における表現の拡張」をテーマに屋内・野外を問わず活動しています。 アクアラインのふもと、木更津の海岸に浮かぶ小さな島に建つ一棟の住宅。家の明かりがついていますが、遠近感がわからないので、大きいのか小さいのかが不明。上陸してみたい。 これは江戸時代から政治家や建築家たちの間で議論されていた「東京湾に海上都市を建設する」という議論があったことから着想されたそうで、そうした検討の果てに開通したアクアラインによって、多くの人が木更津に「夢のマイホーム」を建て、以前の田園風景は一変。この作品は、SIDE COREのメンバーの一人がかつて家族と共に暮らした木更津の家がモデルとなっているそうです。 振り向くと、さっき見えなかった富士山が!感動的です。内房総にマイホームを持ってみたい。 夕食は、木更津市の海辺、鳥居崎海浜公園にあるレストラン「舵輪」へ。地域の生産者さんが作る食材を、レストランが料理で繋ぎ、食をリレーしていく。「食(Food)が社会(Society)と繋がり、そこに生きる人たちの人生(Life)が紡がれていく」。そんな素敵なコンセプトがあるそうです。晴れの日は富士山を遠景に、夕方には美しいサンセットが楽しめます。 カメラマンとスタッフのみんなで乾杯!鮮魚のカルパッチョや舵輪名物の ロースト千葉肉の盛り合わせなど、どれも本当に美味しい!トマトソースのパスタにはなんとKURKKU FIELDSの竹島さんのモッツアレラチーズもトッピング。やはり絶品です。今日見た作品についてみんなで語り合いながら、最高の宴でした。 後編では、KURKKU FIELDSの作品めぐりと袖ケ浦のアート作品をご紹介します!記事はこちらから! Photo:Eri Masudatext :Kana Yokota 

アートやそれに関わる方々とのご縁が君津市の新たな財産となり、それが未来へとつながるよう取り組んでいきたい。

君津市

2024.04.24

アートやそれに関わる方々とのご縁が君津市の新たな財産となり、それが未来へとつながるよう取り組んでいきたい。

君津市長 石井宏子 ---------百年後芸術祭に参加するに至った経緯についてお聞かせください。 千葉県の150周年事業として、当初、千葉県と市原市、小林武史さんの三者でお話しを進めていたところに、近隣の君津市、木更津市、富津市、袖ケ浦市の4市も一緒に取り組もうとお話しをいただきました。内房総5市でそれぞれが持つ魅力や歴史、文化を、アート作品として表現する。これは市民にとってもシビックプライドを高めるきっかけになり、改めてこの地域の良さを感じていただくきっかけにもなると考えています。 100年後に思いを馳せ、参加者と一緒に100年後を創っていくというコンセプトは、本市が総合計画で掲げる「ひとが輝き 幸せつなぐ きみつ」にも通じると思っています。先人たちが「未来のために今できること」を積み上げ、それを受け継いできたからあるこの地域を、100年後に向けてもっと輝かせ、つないでいくための取り組みの1つがこの芸術祭。この芸術祭をきっかけに来場者と君津がつながり、新たなご縁が生まれ広がっていくことに、とてもワクワクしています。 ---------内房総5市の魅力や可能性をどのようなところに見出されていますか? この内房総地区というのは、東京湾アクアラインの開通により都心へのアクセスが大変良いというところはありますが、改めて最近思うのは緑と都市が絶妙に融合した地域であり、生活するうえで、大変魅力のある場所だということです。各市でさまざまな産業や文化があります。本市で言えば、やはり昭和40年代に立地した日本製鉄さんですが、湾岸部に立地する大手企業の工場群がこの地域の大きな特徴です。君津市は、里山、湖など豊かな自然が残りながらも、一方で企業城下町として整然と区画された市街地が広がっており、生活しやすい環境が整っています。 また、全国各地から様々な文化を持った方々が工場勤務のために移住してきました。当時では多様性の最先端であったのではないかと思うのですが、そのこともこの地域の魅力ではないでしょうか。 君津市庁舎からの眺め ---------製鉄所さんのお話も出ましたが、今回、君津市ではその製鉄所の文化に関連した作品も展示されています。アート作品展示に期待することを教えてください。 保良雄さんのアート作品の展示場所としてお借りしている吉川工業さんの社宅跡や、さわひらきさんのアート作品展示場所である旧内箕輪保育園は、鉄鋼関連企業の進出に伴う人口増に対応するために作られた施設であり、これまでの君津市の発展とともに歩んできて、今は役割を終えた場所でもあります。アート作家さん達には、君津市のこうした場所や歴史に興味をもっていただき、これまでの準備期間では色々な背景を学び、作品制作にあたっていただきました。 保良雄《種まく人》が展示されている吉川工業 内箕輪社宅 さわひらき《Lost and Found》。令和5年3月まで子どもたちが通った旧内箕輪保育園の保育室と園庭を舞台に映像や彫刻などを交えたインスタレーションを展開。 「八重原公民館」では、深澤孝史による《鉄と海苔》、佐藤悠による《おはなしの森 君津》が展示されている。 アート作家さんがどのような切り口で君津市を見て表現するのか、独自の感性と君津市のこれまでの文化を掛け合わせる、融合させることで、君津市の新しい側面も見えてくるのかなとも思いますし、アート作品を見た市民の皆さんの新たな刺激になったり、さらに君津愛を深めてくれたらうれしいですね。また、今回のアートフェスは県内の小学生・中学生に無料パスポートを配布していますが、子どもたちにはぜひ、アート作品を見に来てほしいです。アート作品を実際に見て何かを感じていただければ、それがこれからの君津市の発展につながっていくのかなと思います。 ---------石井市長は君津市の魅力はどのようなところにあるとお考えですか。 利便性の面で都心へのアクセスなども魅力として挙げられますが、根本にあるのは、都市と自然の調和で、そこが君津市の大きな魅力ですね。市街地は先ほど申し上げた鉄鋼関連企業の進出により爆発的に人口が増加し、それに伴い住環境の整備も進んだことで生活のしやすい環境があります。また、平成の名水百選に選出されている「生きた水久留里」やこの銘水を生かした地酒づくり、昨今SNSで注目を集めた清水渓流広場、関東有数の雲海スポットである九十九谷展望広場など、地域には自然をもとにした資源がたくさんあります。 また、近年では君津市を水上スキーの聖地とすべく、千葉県のご協力をいただきながら郡ダムで水上スキーの実証実験も実施しています。昨年は、第69回桂宮杯全日本水上スキー選手権大会が開催されるなど、大学生を中心に全国から水上スキーヤーが君津市を訪れており、この関係人口というのは君津市の財産でもあります。今回のアートフェスを通じて、さらに様々な方とのつながり、関係人口・交流人口を増やしたいと思っています。 また、君津市は全国でも有数のカラーの産地です。君津市が発祥の「上総堀り」工法を利用した自噴井戸により、24時間365日、14から15度の安定した清流が小糸のカラーを育てているんです。水田に設置したパイプハウスの中は、清流が天然のエアコンとなり、夏は涼しく冬は暖かく保たれていて、化石燃料を使用しないエコな栽培です。房総の比較的温暖な気候もカラーの生育条件にピッタリなんですよ。春はミモザも小糸地区で栽培しています。そんなことも知って頂きながら、アートも観光も楽しんでいただきたいですね。 ---------100年後、どんな未来を望みますか? 100年後の君津市への想いは? これまでの100年も激動の時代でしたが、これからの100年はAIの発展をはじめ、予想できないほどにさまざまなことが進むでしょう。急激に変革していく時代が想定される中でも、これまで君津市に関わってきた方々が未来のために紡いできた歴史や文化を生かし、さらに良いものにして未来へつないでいくことが今を生きる我々の責任だと思っています。 今回の百年後芸術祭でも、アート作品やそれに関わる方々とのご縁が君津市の新たな財産となり、先の未来へつながっていくよう、全力で取り組んでいきたいと思います。 ---------最後に「百年後芸術祭」への期待をお聞かせください。 内房総5市で一体となって取り組むことは初めてで、千葉県内でもこれほどまでに広域で一つの事業に取り組むというのは例を見ないのではないかと思います。この芸術祭は1つの大きなチャレンジになりますが、この事業の成功が内房総地域のさらなる発展のきっかけになるとも考えています。今回の芸術祭という取り組みが、君津市にとって新たな1ページとなり、そして君津市民の皆さんにとっても、芸術に触れる機会となることで豊かな生活につながることを願っております。 Photo:Eri MasudaInterview & text :Kana Yokota 

フラム海苔ノリ通信Vol.3

内房総アートフェス

2024.04.15

フラム海苔ノリ通信Vol.3

4月14日(日)。いつものように品川駅で朝食を摂り、一服して内房線で、今日は五井駅から車で上総牛久駅へ。 藤本壮介《里山トイレ》Photo by Osamu Nakamura 岩沢兄弟《でんせつのやたい》 藤本壮介さんのトイレは男1、女5、共用1で合理的だった。沼田侑香さんの肉屋さんと和菓子屋さんの作品と岩沢兄弟の電気屋さんの《でんせつのやたい》(電設の屋台)は牛久の商店街です。早期だったので肉屋さんでコロッケとアジフライは買えず、和菓子屋さんで買った梅餅と桜餅は相変わらず旨かった。 大西康明《境の石 養老川》 大西康明さんの《境の石 養老川》は旧信用金庫内に一つひとつの石から型取りした銅の花弁が無数に空間に流れているような作品で、不思議な感覚でした。 柳建太郎《KINETIC PLAY》Photo by Osamu Nakamura 印西市の漁師でもある柳建太郎さんは人も知るガラス細工の名人ですが、商店街に工房を構えていて超絶技巧は見ものでした。壁に掛けられた時計と、時計の機械だけ剥き出しの20個ほどが、妙にガラスに合っていると感心しました。 豊福亮《牛久名画座》Photo by Osamu Nakamura 千田泰広《アナレンマ》Photo by Osamu Nakamura 豊福亮さんの《牛久名画座》も見応えがあります。千田泰広さんの《アナレンマ》の無数の意図と光の交錯は驚くべきものでした。 笹岡由梨子《Animale(アニマーレ)》 Photo by Osamu Nakamura 笹岡由梨子《Animale(アニマーレ)》 Photo by Osamu Nakamura 旧平三小学校で前回見れなかった笹岡由梨子さんの《Animale(アニマーレ)》は三体のオブジェ。それぞれに鍵盤楽器、ラッパ、太鼓が組み込まれていて、目と唇の映像が映しこまれている…と言っても何も説明にならない…けれども「教えてくれや、労働」という言葉をkeyに三体とも動物の必死で哀切のある、しかしユーモアともとれる訴えによって見る者の気楽な気分を揺さぶってくれる、お勧めの作品です。 森靖《Start up - Statue of Liberty》Photo by Osamu Nakamura ソカリ・ドグラス・カンプ《Peacetime》 森靖さんの木工房は作品が出来上がり始めていました(※会期中公開制作する作品)。ソカリ・ドグラス・カンプの鉄作品は完成して、グラウンドに展示されていましたが気持ちのよい出来でした EAT&ART TARO《SATOMI HIROBA》/塩田済シェフのホットサンド Photo by Osamu Nakamura 昼ごはんはベーコンホットサンドと、いちごミルクとパン。みんな上出来のおいしさでした。 ディン・Q・レ《絆を結ぶ》(市原湖畔美術館)Photo by 田村融市郎 市原湖畔美術館では、安田菜津紀さんの、日本に住んでいる外国人のお話です。皆さん、熱心に聞いていました。 梅田哲也《上架》Photo by Osamu Nakamura 梅田哲也《上架》 最後は木更津市です。梅田哲也さんの作品は旧市役所跡の車庫兼物置きで、ガラス球、網、バケツ、ロープや石や貝殻と現世での鳥の声は、飛行機の爆音が空間の中にあるのを、私たちは詩を読むように回るのですが、これが楽しい。グラウンドにはネットが絡まった立方形のポールがあって、そこから見上げる飛行機は印象的でした。 増田セバスチャン《Primal Pop》 駅のインフォメーションセンターで増田セバスチャンの仕事を見て帰りです。気持ちの良い晴日、特に旧平三小学校での桜は見事でした。 旧平三小学校の桜 北川フラム

豊かな自然やグルメなど、百年後芸術祭を機にまちの魅力をもっと知ってもらうべくさらなる“富津市磨き”をしていきたい。

富津市

2024.04.14

豊かな自然やグルメなど、百年後芸術祭を機にまちの魅力をもっと知ってもらうべくさらなる“富津市磨き”をしていきたい。

富津市長 高橋恭市 ---------「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」開催の経緯をお聞かせください。 百年後芸術祭を開催する内房総5市(市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市)の内、富津市は最後にメンバーに加わりました。市原市を除いた4市を「かずさ4市」と呼称することがあります。各市それぞれに持ち味がありますが、豊かな自然とそこから生まれるグルメは富津市が一番だと自負しています。百年後芸術祭を通して実際に多くの方々に富津市を訪れていただき、富津市の魅力、本物の魅力を知っていただくことが私たちにとってのひとつの目的となっています。 富津市には鋸山美術館(旧金谷美術館)という民間美術館や、仏教遺跡や産業遺跡がある鋸山などがあり、これらを使った芸術活動は以前から行っていました。その取り組みに対する反応を見て芸術活動の効果は感じていましたので、百年後芸術祭で著名なアーティストの作品を展示していただき、市民の方々が触れられる機会を作っていただけることはすごく楽しみですし、地域の子どもたちにいい刺激を与えてくれると期待しています。 今回作品を展示するのは、富津市と海のつながりを紹介する富津埋立記念館をはじめ、市民の憩いの場となっている市民ふれあい公園や富津公民館となりますが、そこを起点に鋸山美術館や鋸山など地域を代表するスポットにも足を運んでいただけると、より深く富津市を知っていただけるでしょう。 作品を展示するにあたっては地元の方々にもご協力いただきました。先日たまたま会った漁師さんにも「この前、芸術祭の準備を手伝ったんだよ」と言われ、本当に地域で作っているんだなと感じていますので、私自身も見に行くのを楽しみにしています。 4月6日に開催された百年後芸術祭のライブパフォーマンス「不思議な愛な富津岬」は東京湾に突出した富津岬にある「千葉県立富津公園ジャンボプール」が舞台に。 中﨑透「沸々と 湧き立つ想い 民の庭」。埋め立て地に建つ「富津公民館」を中心とした、巡回型インスタレーション作品。地域に所縁のある4名の方にインタビューを行い、富津市の漁業や岬周辺の公園、海や街についての話を伺い、その言葉から引用した37のエピソードを会場内に配置し、エピソードとオブジェクト(制作した作品や備品、残置物を組み合わせたようなもの)を辿りながら富津市にまつわる物語を体験する。 五十嵐靖晃「網の道」。およそ50年前に行われた埋立開発は海の風景・漁場、人々の営みを変えてきたが、ここ富津の海では、海苔漁が受け継がれ今の姿がある。この地で先代を含んだ漁師たちと協働で海苔網の道を編み、これからの50年に向けて50年前の志気を編みつなぐ。富津岬を挟んだ南北2つの網の道を歩き、水際の風景を眺めながら、地域社会の変容を体感すると共に、人と海の関係の100年後を想像してみる。 ---------「豊かな自然とそこから生まれるグルメ」を挙げていただきましたが、その他に富津市にはどのような魅力があるのでしょうか。 先ほど紹介した鋸山は観光客の方には是非見ていただきたいスポットですし、お子さま連れをはじめ幅広い年代に楽しんでもらえる場所としてはマザー牧場がありますが、何と言っても一番の自慢は海も山もあるということです。富津市の海はいわゆる江戸前の最も南に位置していて、ここで取れる海産物はどこに出しても恥ずかしくないものだと自信を持って言えます。ただし、近年は不漁に苦しんでもいますので、漁師さんや飲食店を応援する意味でも現地に来て本物を召し上がっていただきたいですね。その他にも、ご当地ラーメンの竹岡式ラーメン、私たちは「はかりめ」と呼んでいるアナゴ料理、メロンやイチゴといった果物など、おいしいものはたくさんあります。 富津市の人気和食店「味のかん七」の「はかりめ丼」。 穴子は細長い体に規則正しく白い点々模様があり、それが棒はかりの目のようであったことから、富津市の市場用語で「はかりめ」と呼ばれていたという。 景観も大きな魅力でしょう。富津市からは東京湾越しの富士山が見えます。日本全国どこからでも見えるものではなく、私たち富津市民の自慢の1つです。富津市内から富士山が見えるポイントはいくつもありますが、見る場所や気候条件によって少しずつ見え方が違っていますので、市内をくまなく巡り、ここでしか見られない富士山の多彩な表情を楽しんでいただきたいですね。 富津市役所から眺める富士山。 東京湾に細く突き出た富津岬。突端までの木のトンネルも雰囲気がある。 富津岬突端にある明治百年記念展望塔 もうひとつ挙げられるのは都心からの距離感です。私もこの富津市で生まれ育った人間ですが、若い頃は田舎に対してマイナスイメージを持っていましたし、夜になると真っ暗になってしまう町が嫌で、都会に対する憧れを持っていました。でも社会に出ていろいろな人と出会い、仕事を通じて地域に根ざす活動を始めてみると、やっぱり富津市は良いところなんだなと思えるようになりました。アクアラインを使えば1時間半ほどで東京にも出られることを考えると、「ちょうど良い田舎」と言えるんですよね。富津市はかずさ4市の中でも少子高齢化が特に進んでいて、人口減少や空き家などの問題も増えています。それでもこの数年間でその「ちょうど良さ」が注目され、移住してきてくれる若い方や、この地に別荘を構える方も増えてきています。そうした人々に対して、富津市の自然のように時代が新しくなっても簡単にはつくれないものを継承し、生かし、今の時代に生きる人々の希望になるような方向へ進めていくことが私たちの使命だと思っていますし、そのためにも我々が持っている魅力をもっと磨く“富津市磨き”をしていかなければなりません。こうした思いは百年後芸術祭にも共通しているポイントなのでしょう。 ---------100年後の富津市がどのような地域になっていてもらいたいとお考えでしょうか。 残さなくてはならないものがしっかりと残っている未来だといいなと思っています。我々の場合は自然がその最たるものですが、やはり一度手を付けてしまうと簡単に元に戻すことはできません。富津市は東京に最も近い本物の自然のある地域だと思っていますので、今の時代に生きる私たちが努力して、100年後にも残る本物の自然を守っていかなければならないでしょう。 自然という観点では、ジビエもキーワードになってくるでしょう。近年全国的に猪や鹿といった有害鳥獣の存在が問題になっていますが、そうした生物と共存しながらも管理していくことが大切になっていきますし、その生命をできる限り有効活用していくべきだと思っています。そのためにいろいろな方のお知恵をいただきながら、ジビエの活性化も進めていきたいですね。 人口面では、この地で生まれた子どもたちに、社会の中心世代になってからもここでの生活を選んでもらうための努力が必要です。そのためには行政が一定の利便性を確保していかなければならないので、「田舎のままでいいや」という思いでいてはなりませんし、子育てや教育、健康といった生活の根幹部分で他地域に負けないようなレベルを保っていきたいと思っています。 ---------最後に、「百年後芸術祭」に興味を持ってくださっている方にメッセージをお願いします。 2023年9月のスタート以降いくつかのイベントに参加させていただきましたが、私自身現代アートに触れる機会はあまりなかったので、正直なところはじめのうちは「え?」「これはいったいなんだろう?」と思うこともありました。でも、だんだんと引き込まれていき、圧倒されることもありました。それに多くの人が感心している様子を見ると、この分野には多くの可能性があると感じるようになってきました。富津市の伝統文化も、もっと自信を持って取り組んでいったり、少し形を変えてアピールしていくと、より素敵なものになり、注目も集められるかもしれないですよね。 そういったさまざまな発見がある芸術祭を通して富津市にも訪れていただきたいのですが、その際には自動車で移動するだけでなく、徒歩でも市内を巡ってもらうことをおすすめします。富津市ではウォーキングイベントを頻繁に開催していて、私も定期的に参加するのですが、長年この地で暮らしている私でも歩く度に新しい発見がありますし、都会で生活している方には珍しい風景を楽しんでいただくこともできるでしょう。そういったものを味わっていただけると、私たちもとても嬉しいです。 Photo:Eri Masuda Interview:Kana Yokota  text :Tomoya Kuga

フラム海苔ノリ通信Vol.2

内房総アートフェス

2024.04.07

フラム海苔ノリ通信Vol.2

4月6日、菜種梅雨の中、京葉臨海工業地帯が成立する半世紀前に作られた富津公園のジャンボプールの水がゆっくりと流れる中、客席とパフォーマーが一体化する空間で「不思議な愛な富津岬」というタイトルの「通底縁劇・通底音劇」が開催されました。 通底縁劇・通底音劇「不思議な愛な富津岬」会場の様子 Photo by Osamu Nakamura 小林武史さんのスペシャルバンドが演奏し、アイナ・ジ・エンドが唄う約1時間、ひびのこづえの海中の愉快な生き物と、それに同化したアオイヤマダら東京QQQのメンバーが10体、踊り、走り、ボートに乗り、エアリアルをするという特別な時間でした。 通底縁劇・通底音劇「不思議な愛な富津岬」会場の様子 Photo by Osamu Nakamura 私は音楽の世界に疎いけれど、これが全力で立ち向かった人体と衣装とのカーニバルだということが伝わってくる。小林武史はこの大変な音楽の他ジャンルとの協働を5市のそれぞれの場で違った形でやるのだと思うと震えがきたと報告しておきたい。とにかく楽しいし、ジャンルや形式や表現方法が異なるものを縦・横・斜めに共通の時空間でクロスさせることが、私たちの身体と気持ちを不思議にゆるやかにさせてくれる体験をしたのです。これからの5公演に期待です。 開発好明「100人先生の10本ノック」/「リサイクルビート先生」 その40分後、私は袖ケ浦市郷土博物館の開発好明さんのプロジェクト「100人先生の10本ノック」の「リサイクルビート先生」に立ち合いました。既に藤代かおるさん(上総掘り技術伝承研究会副会長)の「上総掘り先生」は終了していて残念なのですが、塩谷亜弓さん(ドラム・パーカッション奏者)のこの場には大人・子ども40人くらいが、ドラム缶、鍋、炊飯器、コップ、ばね、筒段ボール、何十種類もの使用済みの楽器素材をかきまわっているのでした。はまりそう。 この郷土博物館は立派で、地元の人たちの見識がある。現代から先史時代へ遡ること。史料研究誌がずっと出ているとのこと。そのうえ、特別展(今日は金谷遺跡でした)をやっているとのこと、土器作りの会、機織りの会など7つのサークルがあること等です。公園と一体化した素晴らしい施設で、そこをベースにアーチストの作品があって嬉しくなりました。 最後は君津市の八重原公民館で、佐藤悠さんの作品のなかで石井宏子君津市長と君津の海苔と製鉄にまつわる対談でした。 忙しいけれどいろいろ体験しに行きたいと思いました。 北川フラム

フラム海苔ノリ通信 Vol.1

内房総アートフェス

2024.04.04

フラム海苔ノリ通信 Vol.1

アートディレクター・北川フラムが綴るコラムを定期的にお届けします。 槙原泰介「オン・ザ・コース」Photo by Osamu Nakamura -木更津市- ついさっきまで開いていたと思えるような町の本屋さん。その主人の人となりが思い浮かぶような店先を借りて、槙原泰介の干潟についての展示がある。地図や干潟についての写真や観察、干潟観察ツアーのポスター等々。木更津の干潟の一部は工場地帯に変化したけれども、したたかに残っているところもあって、作家はそこに変わらぬ関心をもっている。その混在した店内は一味も二味もあって、何気ない容器にはメダカが飼われている。合理一辺倒ではない町の店の大切さがあって嬉しい。これはこの内房総アートフェスのベースになる傑作だと思いました。豪雨のあとの雨あがり、その干潟巡りに行きたかったが、果たせなかった。残念。まだ4月13日(土)、4月28日(日)、5月11日(土)にあるのでお誘いです。この豪雨のせいで旧里見小学校(市原市)での「おにぎりのための運動会!」も中止。これも4月27日(土)と5月18日(土)にありますよ。 槙原泰介干潟ツアーの様子 EAT&ART TARO「おにぎりのための運動会!」(市原市)Photo by Osamu Nakamura 近くの倉庫に小谷元彦の「V (仮設のモニュメント5)」が不思議な迫力で鎮座しています。小谷の作品は、情報と物が溢れている現在の「神」が突如間違って登場したように感じられるものですが、それを支えている技術が見せ場になっています。 小谷元彦「V (仮設のモニュメント5)」Photo by Osamu Nakamrua -君津市- 八重原公民館は、京葉臨海工業地帯が出来始める約50年前から、多くの移住者が集まってきた団地の中にあり、今も盛んに活動しています。外に海苔が天日干しされているように見える、たくさんの瓦板が並べられていて、その鉄でできている海苔板を叩いて楽しんでいる人もいます。古い大判の写真も貼られていて、日本製鉄という世界有数の製鉄所がこの地に与えた影響を知ることができます。2万人を超える人が全国から集まってきました。深澤孝史は地域の聞き取りの上手な作家で、その時にもたらされた「マテバシイ」という植物が海苔作りに良くて、そのまま大切にされたという話を、公民館の中庭の池で見せてくれています。 佐藤悠「おはなしの森 君津」Photo by Osamu Nakamura この公民館の中央ロビーには佐藤悠が所狭しと面白い展示をしていますが、佐藤の本領は”お話しおじさん”です。人が集まれば、観衆とのやり取りを絵に描いていく、その会話の媒介は地域についての知識です。人はおのずとこの地に親しみをもっていくという仕掛けです。 さわひらき「Lost and Found」Photo by Osamu Nakamura 近くの保育園が楽しい作品になっていて、さわひらきによるものです。園庭に面して4つの教室がありますが、その教室に入っていくごとに、それぞのれの部屋が暗くなり、それぞれの物語が部屋の道具、映像、照明の動きによって語られるというもので、保育園がもっている明るい楽しさが感じられるというものです。 保良雄「種まく人」 そこから少し行ったアパート群の一つの入口からは4階に向かっての一部屋ずつを昇っていくと、人の居なくなった部屋に外部の土と植物が入り込み、成長していく仕掛けの作品に出会います。君津にある4作品からは、その年の一世紀の時間が感じられるようです。 -袖ケ浦市- ダダン・クリスタント「カクラ・クルクル・イン・チバ」 袖ケ浦の作品がある一帯は、班田収授の法があった頃からの古い土地で、田甫の広さは変わっていないような豊かな場所で、インドネシアのバリ島にある鳥よけの風を受けて鳴る楽しいダダン・クリスタントの作品「カクラ・クルクル・イン・チバ」が50基カタカタと音を立てています。近くにある販売所の果物・野菜は旨さ、値段ともに魅力的なのでお薦め。 大貫仁美「たぐり、よせる、よすが、かけら」Photo by Osamu Nakamura 資料館を巡る美しい池を囲んだ袖ケ浦公園巡りは人気がありますが、その中の2基の竪穴式住居と歴史的建造物の旧進藤家には、大貫仁美のガラスの断片を中心とした作品が設えられてあります。旧進藤家では、周辺の人たちとのワークショップでの成果もありますが金継のように繊維がガラス化したシルエットが美しい。 東弘一郎「未来井戸」 そこから降りた所にはモノづくりの名人・東弘一郎の上総掘りが見事に作られて圧倒されます。(近くにカブトムシのバイオスフェアもあります) キム・テボン「SKY EXCAVATER」Photo by Osamu Nakamura 江戸湾を囲んで房総半島には更級日記以来、古い歴史があります。鎌倉殿は房総と三崎半島の一衣帯水の世界を往来したし、里見氏の栄枯盛衰もある。江戸時代は池波正太郎の小説に出てくるような江戸前の旨い食物があったり、良くも悪くも江戸を補完する土地でもあり、幕末からは国防の拠点ともなりました。臨海工業地帯へと変化したあと、アクアラインが画期をつくります。その「アクアラインなるほど館」という名の施設にはキム・テボンが、そのシールド工法が宇宙船のコクピットのように感じられたらしく、迫力ある展示をしましたが、ここには60年代の丹下健三の「東京計画」などの計画が一瞥されていて近代日本を肌で感じられるようになっています。 -富津市- 五十嵐靖晃「網の道」(下洲漁港)Photo by Osamu Nakamura 富津は内房線特急の停まる君津駅の先にあり、富津岬を抱える太平洋の外洋と接するところ。今もって、下洲漁港には海苔漁業者がたくさん居る。五十嵐靖晃はそこに迫力ある美しい海苔網を設置しました。海苔網は水面下数cmほどに設置します。どんな海苔を採るかにより幅20cmほどのマスは異なります。採取時にはこれを水面上1m以上に持ち上げ、いわば海苔網の下を漁船がくぐり海苔を落として集めるのです。それを陸で体験するのが、この作品の楽しいミソです。もともと漁師さんは富津地区4漁協(青堀・青堀南部・新井・富津)に所属していましたが、埋立を前にして現在の場所に移住しました(もとの場所の陸にも網は設置されています)。 岩崎貴宏「カタボリズムの海」 武藤亜希子「海の森-A+M+A+M+O」Photo by Osamu Nakamura この埋立記念館は楽しい海苔採りを含めた江戸湾一帯のよくできた資料館ですが、そこの和室に岩崎貴宏が醤油の海を作り、そこに船のミニチュアを浮かべています。障子紙越しに射してくる光の変化が美しい。その向かいに武藤亜希子さんのアマモをテーマにした空間があり、遊べます。 中﨑透「沸々と 沸き立つ想い 民の庭」Photo by Osamu Nakamrua この建物の隣に富津公民館があり、この入口と二階を使って中﨑透による、”4人の住民の語りによる文物を編集した、地域の生活のリアリティ”ーー「沸々と 沸き立つ想い 民の庭」が楽しめます。地域を歩く。そこに残されている道具や看板、雑誌・資料を集める。そこに生きている生活者に丁寧にインタビューして纏める。そこに氏独特の色付きアクリル板と照明を挟んで編集するというサイトスペシフィックアートの方法を展開しています。ここでは館内のホールを出ての階段や通路も使っていて、総合的な体験が可能です。 まずは第一報。 北川フラム

「自分が生きてる間に、百年後に続く何かをしないといけない。自分がつくったものがゴミになってはいけないなと思います」

内房総アートフェス

2024.02.20

「自分が生きてる間に、百年後に続く何かをしないといけない。自分がつくったものがゴミになってはいけないなと思います」

コスチューム・アーティスト ひびのこづえ ---------ひびのさんは、en Live Art Performanceの衣装を担当されていますが、百年後芸術祭に関わることになったきっかけは? 私はコスチューム・アーティストとして、服をアートとして、ダンス・パフォーマンスをつくったり、野田秀樹さんの舞台の衣装に関わったり、NHK E テレ「にほんごであそぼ」のセット衣装をつくったりと、とにかく、人に関わるものを作り続けてきました。百年後芸術祭に関わるきっかけは、この芸術祭のクリエイティブディレクターでもある大木秀晃さんの存在がありました。東京オリンピック2020の企画の一つで「わっさい」というオンラインイベントがあったのですが、大木さんに声をかけてもらい、衣装デザイナーとして関わることになったんです。ダンサーのアオイヤマダさんや高村月さん、KUMIさんもこの時のイベントで初めてご一緒したのですが、すごくユニークなダンサーの方々でした。ふだん私はコンテンポラリーのダンサーとのお仕事が多かったのですが、その枠を飛び出した表現方法で活躍されている方々とのお仕事を通してとても感動も味わっていた中でのお誘いでしたので、お受けさせていただきました。 ---------en Live Art Performanceのコンセプトを受けてどんな衣装のイメージを考えられたのでしょうか? まず最初に芸術祭や「en」というコンセプトをお聞きして、大枠は分かるけれど、このプロジェクトをどうやってつくっていくのかを理解するのに戸惑いましたね。ポールダンサーのKUMIさんとダンサーの高村月さんが出演されるということですが、小林武史さんがイメージされているパフォーマンスの世界観がどういったものなのか、そのための衣装をどうやってつくったらいいか悩みながら、手探りで進めていった感じです。 いつもそうなのですが、かたちになっているものから引き算するのではなくて、かたちのないものに足していくので、これが本当に正解かどうかは今でもわからないけれど、でもいろんなクリエイターが小林さんを中心に集まって、いろんな謎解きをしていってできたものがこれなんだろうなという風には思います。小林さんや大木さんからいただいたストーリーや言葉の一端を衣装に置き換えるということをしていきました。 ---------KUMIさんも高村月さんの衣装もとても印象的で、惹き込まれるものがありました。 実際に制作した衣装は3種類です。高村月さんの最初のお面をつけた衣装と最後の衣装、KUMIさんが曼荼羅の中心にいる人のようなイメージの衣装です。ポールダンスって、衣装を身に付けていない方が楽じゃないですか。そういう意味で、衣装があることでKUMIさんの技を封印してしまって申し訳ないなという気持ちもありつつ、ただ、あの3メートルの棒の上に重力を超えて軽やかに踊るKUMIさんの姿がとても神々しいんですね。その神々しさを表現したいという思いがあったのと、重力に抗って動くKUMIさんに対して浮遊するバルーンをつけるという、相反しているのだけれど、引いてみると一つのフォルムにまとまって見える。時空を超える存在に見えると思ったので、今回はKUMIさんに頑張ってもらいました。 月さんに関しては、映像とのシンクロしたメッセージがあったので、それをどう形にすればいいのかを考えました。舞台が全部明るいわけじゃない空間で、闇の中を彷徨うような、そういうイメージが映像の中にもありましたけど、闇に溶けずに、光を味方にできるような衣装にしなくちゃいけないなというイメージでつくりました。後半の衣装はとにかく、月さんが動いてくれることで衣装が「円」になるというものをつくりたかった。だから円になるために月さんはずっと踊り続けなくてはいけないんですよ。でも、それが「en」っていうことなんじゃないかなと。円や縁をキープすることって相当な努力が必要なんだなって、月さんの踊りを見ていて、改めて感じました。衣装って、着る人に負荷をかけてしまうから、どんな仕事でも「ごめんなさいね」ってつい言ってしまうのですが、それでもみんなが目指すところに向かってくれる表現者たちのパワーに敬服します。 ひびのさんによる衣装デッサン ---------初公演を終えての感想は? 観客の方はそこまで感じないかもしれないのですが、一時間ほどのステージの中で、KUMIさんと月さんのお二人が衣装を着て踊る姿を見ながら、絡まずに踊れるかなとか、私はライブパフォーマンスを見守っている時が一番ドキドキするんです。でもそれが生身の人間が動くこと、演じることの危うさであり、生で魅せることの面白さでもあるなと思うんです。 ---------長年、衣装デザイナーとして経験を重ねていらっしゃるので、生身の人間を舞台の上で引き立たせるという事はお手のものかと思うのですが、そんなひびのさんでも難しさを感じることはあるのでしょうか? もちろんありますよ。こうした方がよかったかなとか、もし巻き戻せるならここ気をつけようとか。そういう意味では、一度限りではないこのen Live Art Performanceは回を経て進化していくのかもしれません。やっぱり、人ってモノではないから、その時々で感覚も体調も変わりますし、初演を開催した市原とKURKKU FIELDSでは場所の雰囲気が全然違いますから、みんなにとって毎回新しい発見があることは大きいと思います。できれば全国各地で何度も公演を重ねていけたらいいなと思っています。 ---------百年後と聞いてイメージするものはありますか? 「あ、自分はいないな」と、最初に思いますよね(笑)。でも、100年後に責任をきちんと持たないといけないんだなっていうのを、改めて自分にも言われているという感覚を持ちましたね。自分が生きてる間に、百年後に続く何かをしないといけないと感じます。デザインやファッションの世界の百年後でいうと、自分がつくったものがゴミになってはいけないなとは思います。みんながそれぞれつくったものを一回限りで捨てないこと、いいものだったら残っていくので、そういうものを生み出すことがもっと大事になっていくと思います。それは高度経済成長時代で日本人が忘れてしまったものでもあると思っていて、新しいものを生み出すことに必死になって、少しずついいものを生み出すということから離れてしまっていたような気がします。 ---------ひびのさんは日々どんなことから創作のインスピレーションを得ているのでしょうか? やはり、自然からのインスピレーションが大きいですね。自分が子どもの頃育った場所の空の色や緑など、日本の自然環境の影響が大きいと思います。初めてパリに行ったときに、なぜフランス人の描く空の色が違うのだろうとずっと思っていたことがはっきりしたことがあったんですね。本当に空の色が違ったんです。ほかにも、歌舞伎の衣装を手がけた時に、しっくりくるなという感覚を持ったことも大きくて、派手な色ではなく、日本の伝統文化に残っている、日本の環境にある色を自然に使っていたんだなということを確認できたんです。日本人であるということ、日本らしさというものが創作の原点になっていると思います。 ---------最後に、百年後芸術祭に関心を寄せてくださっている方へのメッセージや期待などがあればお願いします。 衣装の中にいるダンサーたちの身体とか、気持ちとか、感覚など、そこまでみんなが感じ取ってもらえたらいいなと思います。個人的には本当はもっと長く踊ってほしい(笑)。そうしたらもっと伝わるんだろうなと思っています。百年後芸術祭に関しての期待は、とにかく続けること。百年後まで続けないと、答えは見つからないと思います。 Interview & text:Kana Yokota 

百年先の未来を想いながら、食をみんなで分かち合うことの喜びに触れる。「百宴〜Prologue〜」レポート。

木更津市

2023.12.25

百年先の未来を想いながら、食をみんなで分かち合うことの喜びに触れる。「百宴〜Prologue〜」レポート。

11月5日(日)に開催された「百年後芸術祭 EN NICHI BA Special  百宴〜Prologue〜」。このイベントは、KURKKU FIELDSのレストラン「perus(ペルース)」の山名シェフが、この土地で採れた恵みを「分かち合う」ことを通して、参加者と共に未来に思いを馳せる時間を形作りたいという想いから企画されました。 “生きることは食べること。「食」は私たちの身近な楽しみであり、喜び。しかし気候変動が進み、日常が確実に変化している今、私たちがどのような食材を選択し、食べ、生きていくのか。今まで通りの暮らしで100年先の豊かな未来を創造できるのか。一度立ち止まり、想像してみる時間が必要かもしれません。「食べる」という行為が自然環境を破壊するのではなく、今よりも豊かな自然環境を育むことに繋がればー。” そんな山名シェフの想いが込められた百宴に参加したのは30名。友人同士や家族での参加など、年代もさまざまな人同士が集まりました。 案内人を務めるのはKURKKU FIELDSのスタッフの佐藤剛さん。 「百宴という名前の由来は、100人以上のたくさんの方々とこの時間を共にできたらという想いがあるのですが、初回はそこまでの規模ではなくこの30名のみなさんで、100年後を考えながら過ごせたらと思っています。100年後を考えるということは、誰かのことを考えるということでもあると思います」。 続いて、企画者である山名新貴シェフからの挨拶です。 「僕はふだん、cocoonのperusという宿泊者限定のレストランでシェフをしていますが、今日は外に出て、木更津の風土を感じていただきながらおいしい食事をみなさんで分かち合うことができたらと思っています。100年後に向けて、一人一人、残したいものや感じることは違うと思いますが、思いは違えど、今回は『分かち合う』というテーマのもとお肉や魚といったお料理、そして環境、ここで過ごす時間、感じることを分かち合いたいと思っています」 まずは、火を燃やすための枝や枯れ葉を集めることからスタートです。意外と燃えやすそうな枝を探すのは簡単ではないことを感じつつ、参加者の方々とワイワイ探し歩きます。そして、使わなくなった麻紐をほぐしたものと一緒に火に投げ込みます。 ライターで一瞬にして火をつけることはできるけれど、こうしてみんなで枝を集め、麻紐をほぐす作業を経ての点火は感慨深いものがあります。こんな風に自分で火を起こす体験は初めてだという人も数名いました。 そして次にKURKKU FIELDSの場内を探索しながらファームツアーに出かけます。 オーガニックファームで育っているオクラやパプリカ、マイクロキュウリなど、その場で齧りながら収穫します。みずみずしくて甘酸っぱいマイクロキュウリの美味しさにみんな感激しながら、先を進みます。ビニールハウスでは菜の花やかぶ、ラディッシュ、いんげんなどを収穫します。 エディブルガーデンにはたくさんの種類のハーブが育っています。レモングラス、ローズマリー、ミントなどフレッシュな香りを楽しみながら散策。エゴマの葉っぱを食べてみると、シャキッとしたフレッシュさと濃厚な味わいに驚きます。 水牛にもご対面! 日本では数えるほどしか飼育されていない水牛ですが、KURKKU FIELDSではなんと約30頭も飼育しています。この水牛のミルクで作られたモッツァレッラチーズはKURKKU FIELDSのシグネチャー的な商品でもあり、本場イタリアで研鑽を積んだチーズ職人・竹島英俊さんによってつくられています。 1時間程度のファームツアーを終えて、会場に戻ります。 ウェディングパーティーかのようにスタイリッシュにコーディネートされたロングテーブル。一人一人セッティングされたお品書きには、手書きで「分かち合う」と書かれていました。 ・風土〜Cooking in the Earth・生命力・薪火・山海の循環・矛盾の中で といった素敵な言葉もありました。(あとでメニュー名だったことに気づきます) 最初にいただいたのはウェルカムドリンク。お米を入れた木の器にはグレープフルーツをくり抜いてできたカップが。蓋を開けると、グレープフルーツの果実と米麹、ミルト、ハチミツを漬け込んだというドリンクでした。 「ミルトはイタリアのサルデーニャ島名産のハーブで、現地では葉を月桂樹の葉の感覚で料理の香りづけにしたり、実をリキュールに漬け込んだりするんですよ。和名は銀梅花(ギンバイカ)と言います」とは、perusでドリンクを担当している小高光さん。 みんなで乾杯!!甘酸っぱく、奥深い味わいでありながら香りでも楽しませてくれる不思議な感覚のドリンクでした。 みんなで収穫した採れたての野菜を蒸し焼きにしてくれたもの、具材たっぷりの農場のミネストローネ、グリル野菜の盛り合わせが食卓に並びます。「ちょっと小さいかな?」「このハーブはじめてみた!」なんて会話をしながら自分たちで収穫した野菜やハーブが目の前に調理されて供されるので、会話も弾みます。「これ食べますか?」「これ美味しいですよ!」そんな声がけもロングテーブルでの食事ならでは。 今回初めてKURKKU FIELDSにお目見えしたこちらの焼き場は、宿泊施設「TINY HOUSE VILLAGE」などを手がけた竹内友一さんによるもの。黒い鉄でできたスタイリッシュなこの焼き場は100人での宴もカバーできると言います。 千葉県鋸南町勝山の海でとれた真鯛の吊し焼き。ハーブと薪火キノコで香り付けされたポルチーニクリームソースといただきます。 薪火でじっくり焼いた猪肉のタリアータはKURKKU FIELDSのある木更津市矢那で生産された矢那栗のラム酒シロップ漬けとキャラメリゼした柿とともにいただきます。全粒粉のパンもさっくさくであとをひく美味しさ。 テーブルの上の食事がすっかりなくなるまで、心地よい風と会話を楽しみながら過ごしました。そろそろ宴の終わりです。 こんなにもたくさんの人と、一つのテーブルを囲んで食事をする体験はそんなにないので最初はドキドキしたのですが、みんなで共同作業をした後だったこともあり、楽しく話が弾んだことも印象的でした。大きな鍋でどっさりつくったスープや大きな塊の肉をみんなで分け合うという楽しさも、日常生活ではほとんど経験しないので、こんなにもあたたかい気持ちになるんだということも大きな気づきでした。美味しい食事が真ん中にあればみんな笑顔になる、ということも改めて実感。 そして、食事の後、竹など自然素材で作られた器は最後にキャンプファイヤーをして自然に還したり、料理で使った植物の種を未来へ向けて撒いたり、「循環」という言葉の意味をより実感できる体験も心に残りました。 百年後、私たちは生きてはいないけれど、今私たちが行動することの一つ一つが確実に未来に何かしら影響を与えるのだということを感じた一日。良くも悪くも。自然の営みの循環の中で私たちは生かされてきたのだから、自然が喜ぶことを私たちも返していかないといけない。そんな意識も高まりました。 <<参加された方のコメントもいただきました!>> 「千葉に住んでいるのですが、KURRKU FIELDSに来たのは初めてでした。こんなにも素晴らしい場所で、素晴らしい取り組みをされていることを知って驚きました。野菜も猪のお肉も美味しかったですし、参加して本当によかったです」 「Instagramでこのイベントを知って、私が理想とする世界観のイメージとぴったりだ! と思って参加しました。分かち合う、というテーマが素敵だったし、初めましてのみなさんと楽しく野菜を収穫したり、お食事をしたり、日々の生活でもこんな時間を過ごしたいなと思いました」 「保育士の仕事をしているのですが、子どもたちにも同じ体験をさせてあげたいなと感じました。自然の循環の仕組みもあらためて勉強したいです」 「また来たい!!」 最後に、山名シェフからはこんなコメントをいただきました。 「今日は、思い描いていたイメージ通りの時間をみなさんと共有できたと思います。食べるということはその前にも後にも大切なことがあります。料理人としてもそれは昔から感じていたことだったのですが、KURKKU FIELDSで働き始めてその思いがより深まりました。身体を動かして、自分たちで火をおこし、収穫するという体験が、参加者の方々により食べるという体験の奥深さを味わってもらえるものになっていたら嬉しいです。そもそも、今回このイベントをやろうと思ったきっかけは、コロナ禍でみんなが距離を置いて過ごさないといけなくなって、壁ができてしまったことでした。やっぱり人類って昔からお互いが協力しあって、分かち合って文明を築き上げてきたと思うので、そのことの大切さにたくさんの人が気づいたと思うんですよね。僕もその一人なのですが、分かち合うということを体験するのに食はわかりやすいと思うんです。身体にダイレクトに入ってきますからね。以前からなんとなくあった構想が、百年後芸術祭のテーマと合致して、今回開催できたことを嬉しく思っています。序章を経て、また来年春に向けてすでに準備を進めています。参加していただける人数を少しずつ増やしていって、いつか本当の百宴ができるように、僕らも体制を整えていきたいと思っています」 春の「百宴」もお楽しみに!! Text:Kana Yokota

「百年後、私もあなたもいない世界。そこに何を思うか」。11月5日(日)開催「en Live Art Performance」木更津公演レポート

木更津市

2023.12.08

「百年後、私もあなたもいない世界。そこに何を思うか」。11月5日(日)開催「en Live Art Performance」木更津公演レポート

「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」のオープニングイベントとして、千葉県市原市の上総更級公園にて初披露された「en Live Art Performance」が木更津のオーガニックファームKURKKU FIELDS で本公演として開催されました。 秋晴れの日曜日、開場の10時から来場者は徐々に増え、「en Live Art Performance」には約900人の方が来場されました。当日は、地域の食の魅力が集うマーケットイベント「EN NICHI BA」も同時開催。内房総5市の魅力的な食材を使った「SUN ファーム」や、「nana」、「1分おむすび」、など計26店が出店。 また、今回は、KURKKU FIELDSのレストラン「perus(ペルース)」の山名新貴シェフが、この土地で採れた恵みを「分かち合う」ことを通して、参加者と共に未来に思いを馳せるべく、ワークショップ型の食体験ができる「百宴~Prologue~」も同時に開催しました。 そして、夕方17時。空がオレンジとピンク色に染まり、肌寒くなってきた頃、KURKKU FIELDSのクリエイティブパークに設営された造形的な舞台にプロデューサーの小林武史さんが登場。 開催に際して小林さんは、 「過去からの縁、未来からくる縁を繋ぎ、これから百年後に向かって積み上げていこうという思い。わかりやすく“未来はこうだよ”ということではなく、観念的、抽象的な要素も含まれているかもしれないけれど、皆さんが思うこと、想像することでしか未来はないと思います。難解な部分もあるかもしれませんが楽しんでもらえるものとなっておりますので、ぜひ楽しんでいってください」 と観客に語り、ライブが幕を開けました。 「en Live Art Performance」は、小林武史総合プロデューサーが率いるクリエイター集団「Butterfly Studio」 による、音楽・映像・ダンス・光・テクノロジー(ドローン)を融合させたライブアートパフォーマンス。 本公演は、小林武史さんのピアノの演奏から始まりました。 King Gnuや大橋トリオなど様々なアーティストのMV出演や振付を担当しながら俳優としても活躍しているダンサーの高村月さんによるダンスパフォーマンスは、観客席まで降りるなど、縦横無尽に舞台を使い、音楽に合わせてエモーショナルな表現で観客を「en Live Art Performance」の世界に引き込みます。 続いて、KUMIさんによるポールダンスパフォーマンスは、光に照らされて、妖艶さと力強さが夜空と相まって神秘的な空気に包まれました。 高村月さんとKUMIさんの華やかな衣装デザインを手がけているのはコスチューム・アーティストのひびのこづえさん。「en=円」をイメージしたデザインの衣装はダンサーの二人が舞台を踊り回るたびに衣装の裾が円状にふわりと広がって目を奪われます。 そして、背後に流れる映像は映像作家の柿本ケンサクさんによるもの。自然災害、戦争、破壊、抗えない自然の脅威と人間の愚かな行為をイメージする世界中の映像が流れます。 そして、木々などの自然や畑に囲まれたKURKKU FIELDSの夜空に約500台のドローンが姿を現しました。 会場の後ろの方で静かに見守っていた子どもたちが、ドローンが現れた瞬間に歓喜の声を上げていました。映像は、人の生と死を感じさせるものから次第に生きる喜び、地球とともに生きることへの希望を呼び起こすものへと変わっていきます。 夜空に美しく光り輝くドローンを見上げながら、100年後はどんな世界になっているだろうと思いを馳せてみます。もちろん私自身はそこにはいないし、大きく何かを変えることはできない。ただ、この日、夜空に輝く光を笑顔で見つめていた子どもたちが、生きていく希望を失わない未来を、世の中を、つくっていくために今できることがあるかもしれない。 そんなことを思いながら、「en Live Art Performance」は静かに幕を閉じました。 百年後芸術祭らしい、自然とテクノロジーが入り組んだ臨場感あふれるこのステージ、次回は春の開催を予定しています。 Text:Kana Yokota

わきまえて、生きるー。「Kanji Kobayashi Presents Special Dining for 円都LIVE」レポート

木更津市

2023.11.08

わきまえて、生きるー。「Kanji Kobayashi Presents Special Dining for 円都LIVE」レポート

「百年後芸術祭」初となる「EN NICHI BA」が清々しい秋晴れの中開催 10月21日(土)、清々しい秋晴れで、日中は上着がいらないくらいの陽気のなか、未来の食を考え、体感するイベント「EN NICHI BA(エンニチバ)」がKURKKU FIELDSで開催されました。 当日は11時オープン。千葉で活躍されている農家さんや、レストラン、食品加工メーカーさんなど、15店舗の屋台がシャルキュトリー前の広場に並びました。ジャムやヴィーガンフード、ハチミツなど、美味しそうな商品を試食したり、はまぐりやおむすびを食べたり、夕方の「円都LIVE」を楽しみに来ているお客さんがテラス席や芝生の上でゆっくりとランチを楽しむ様子が見られました。 午後1時半、Special Diningの参加者はインフォメーションで受付開始。胸が高鳴ります。20名近くの参加者を前に、まずは「EN NICHI BA」のクリエイティブに関わるライフスタイリストの大田由香梨さんからご挨拶。  今回のこのイベントは、「百年後芸術祭」の一環として開催されたもので、「EN NICHI BA」とは、「縁日(ENNICHI)」、「市場(ICHIBA)」、「千葉(CHIBA)」 が融合した食と学びの新たな食体験の場なのだと教えてくれました。 「千葉県は山の幸、海の幸に恵まれた、豊かに受け継ぎ守られてきた食文化があります。この豊かな食文化を百年後にも伝えていきたい、そんな想いを込めて開催しました。今日は和歌山の『villa aida』のシェフ小林寛司さんによるお食事と円都LIVEをみなさんに楽しんでいただきますが、お食事の前に少しファームツアーにご案内したいと思います。このファームツアーに参加していただくにあたり、日常の感覚から少し離れていただきたいと思っています。私たちは日々、食べたいもの、欲しいものがスーパーですぐに手に入る環境で生きていて、パスタが食べたい、ハンバーグが食べたいとお料理から先に考えているかと思いますが、KURKKU FIELDSはそうではなく、今、畑で収穫できる旬な野菜、ここで育った鶏や猪、水牛のミルクでできたチーズなど、今ここにあるもの、風土にあったものからその日食べるものを発想します。それを私たちがどう身体に取り込むか、そんなことを思い、感じながら、ファームツアーを体験し、お食事を楽しんでいただけたらと思っています」(大田) そして、KURKKU FIELDSの農場長である伊藤雅史さんと循環の仕組みづくりを担当している吉田和哉さんにバトンタッチ。 「気持ちのいい秋晴れの日にようこそ!積極的に畑に入って、土を踏んで、匂いを嗅いでみてください」 通常、一般の来園者は入ることのできないオーガニックファームエリアを進んでいきます。10月、千葉県では収穫できる野菜が限られているそうですが、そんななかでも今年は暑さが続いたため、オクラやトマトなどの夏野菜がまだ収穫できるのだそう。可愛いマイクロきゅうりも発見しました! 夜になると猪が土の中の虫や微生物、どんぐりや栗などの食べ物を求めて入ってくるため、畑の電気柵は欠かせないと言います。ただ、今年の猛暑のせいでどんぐりが大きく育たず猪の食べ物が少なくなってしまったことが原因だと聞いて、可哀想な気持ちにもなります。野生の動物たちは、気候によっては日々食べるものの確保が困難になってしまうのです。 「実は先週の大風でとうもろこしが倒れてしまったんです。その時はアライグマが落ちたとうもろこしを食べてましたね。あとはオクラ、インゲン、トマト、マイクロキュウリ、カボチャなどが見つかるかと思います」。 広大な畑をゆっくりと歩きながら、次に向かったのは鶏舎。KURKKU FIELDSでは鶏たちを地面に放して飼育し、そこに隣接した運動場をつくることで鶏たちが自由に走り回れる環境を整えているといいます。本当に伸び伸びしていて居心地良さそう! 「美味しい餌と美味しい水、広々とした運動場など、鶏にストレスのない環境を作ってあげて、健康を維持できるように育てています。その代わりどうしても一個あたりのたまごの価格は高くなってしまうのですが、ここではいつも私たちが食べているたまごは鶏が産んでいて、その鶏はどんな環境で育っているのかを知ったり、想像してもらったり、そんなきっかけになればと思います」。 「すべてのものに神が宿る」。日本人固有のアニミズムを五感のすべてで感じる6皿のアート たった30分ほどのファームツアーでしたが、畑の中を歩くことに慣れていないせいか、じわりと汗をかくほど。午後2時、お腹も程よく空いてきて、Special Diningの会場である「フラック棟」に近づくと、炭火の香りが漂ってきました。 大きなお肉は千葉県の猪。これからみんなでいただくために、じっくりと時間をかけて火入れをしてくださっているのはKURKKU FIELDSの佐藤剛さん。 「今日は千葉の食材と、KURKKU FIELDSで育った食材でお料理を作りましたので、ぜひ楽しんでください」とは『villa aida』のシェフ小林寛司さん。 金木犀の香りのする梅ジュースをウェルカムドリンクにいただきながら、ゲストの名前が呼ばれるまでの少しの時間を秋風とともに楽しみます。 そして、通されたお部屋は、白を基調としたテーブルセッティングが見事なパーティー会場。オリーブや丸太のトレーなど、グリーンとウッディなアクセントがとても洗練されていて、ライフスタイリストとして活躍されている大田さんのセンスが光ります。 こちらのフラック棟も一般には開放されていない場所。草間彌生さんやアニッシュ・カプーアなどアート好きにはたまらない人気作家の作品が飾られていて、まさにスペシャルな空間です。 一人一人、自分の名前が書かれた席に着席し、いよいよSpecial Diningスタート。コース名は「ANIMISM」と書かれています。 「ファームツアーでは、まさに今の“実り”を見ていただけたのではないかと思います。そして、ここ最近は気候変動もあり、地球が私たちに強いメッセージをくれていると思うのですが、畑の中でもそういった自然との会話ができたのではないでしょうか。今回のお料理のコース名は『ANIMISM』です。アニミズムとは、自然界には霊魂のような存在があるとする、自然信仰を意味する言葉です。日本人は縄文時代の頃から、風、雷、雨、木、石、大地など自然界のすべてのものに神が宿っていると信じていた民族です。海外に行って日本に帰ってくると特に感じるのですが、アニミズムという信仰心こそが、食の多様性や可能性を豊かにしていると思うんです。特に千葉は海に囲まれていて、農作物も海産物もとても豊かです。100年前、それ以上前の方々が種を植え、自然を繋いできてくれたからこそ今目の前にある食材をいただくことができる。そんな感謝の心でお料理を楽しんでいただけたらと思います」 最初にいただいたのは、摘果したグレープフルーツをくり抜いた中に、ケールと猪や鹿の骨や肉からとったコンソメとケールを和えたスープ。清々しいグリーンとマイクロキュウリの花がまず目を楽しませてくれて、中のあたたかいスープで緊張を解きほぐしてくれる。そんなホッとする一品です。 <広く深く> 次は、ジャガイモと自然薯に玉ねぎと白ワインのフォームを和えたもの。甘いじゃがいものピュレと、粘りのあるなめらかな食感の自然薯とふんわりとしたフォームが口の中で混じり合い、広く深く、というメニュー名通り、土の中で育まれてきた大地の広さや力強さを感じます。やさしい。。 <明瞭、歴然> そして次は、バターナッツのスープです。大きめのお皿にたっぷり。甘さとコクのあるバターナッツですが、bocciのピーナッツペーストのムースと塩ゆでのおおまさりとともに絡めながらいただいていると、あっというまにお皿の底が見えてしまいました。千葉といえば落花生ですが、こうしてムースにしていただくとまた違った楽しみ方ができるという発見も。バターナッツとの相性も抜群です。美味しい野菜って、スープにしてたっぷりいただくのが一番満たされるし、贅沢なのではないかと思わせてくれました。 <身近な自然で食を整え> 4皿目は、麦のリゾットと色とりどりの温野菜。まさにさっきファームツアーで出会ったマイクロキュウリやオクラの登場です。カブや大根もちらり。シャキシャキとした歯ごたえと野菜そのものの甘みを楽しみながら、下に隠れた麦のリゾットとともにいただきます。身近な自然、まさにKURKKU FIELDSの恵みがたっぷりつまった一品。何度も何度も食感と野菜同士のハーモニーを味わえる、パーティーのように楽しい一皿でした。 <風土と共に> あたたかいメニューが続き、すでに身も心もほぐれてほどよく満たされてきた頃、5皿目の登場です。外で炭火で焼いてくださっていた千葉県の猪肉と蓮根のラビオリ、そして焼き大根がお皿の上でアーティスティックに盛り付けられています。弾力のある食べ応えのある猪はコクのある赤ワインソースと好相性。シャキシャキとした蓮根の歯ごたえともっちり食感がやみつきになるラビオリ、香ばしい大根。添えられたオリーブのサブレや、シナモンリーフの香り、ローズマリーといったハーブの心地よい香りを楽しみながらいただく一皿は、自然に抗うことなく、力強く、ていねいに生きること、大地に感謝しながら生きることを教えてくれる、素晴らしいお料理でした。 <わきまえて生きる> そして、最後の6皿目はいちじくと椎茸を使ったデザート。いちじくの葉のミルクアイスとイチジク煮、そしてKURKKU FIELDSのチーズ職人 竹島さんのチーズ、生椎茸をスライスしたものを一緒にいただきます。いちじくの葉っぱをミルクに漬け込み香り付けしたアイスはさっぱりしつつもいちじくの香りがふわりと広がる上品な味わい。いちじく煮は千葉県香取郡にある酒蔵「寺田本家」さんの少し甘味のあるお酒に浸けた後、オーブンでキャラメル状に焼き上げたもの。ほんのりと秋の香りを運んでくれる生椎茸といちじくの新鮮なマリアージュに感動を覚えた一皿でした。そこにある旬のものを、美味しくいただくこと。私たちは自然の一部であり、自然に生かされていることをわきまえる。そんなメッセージなのかな、なんて想像しながら至福の時間を味わいました。 食事の後半には、円都LIVEに出演予定のチェリスト、四家卯大さんが演奏をしてくださるというサプライズも。バッハ 無伴奏チェロ組曲 第1番「プレリュード」にはじまり、パブロ・カザルス「鳥の歌」、サン・サーンス「白鳥」などチェロの名曲を奏でてくれました。「チェロにも神様が宿っていると思う」。そんなお話を四家さんがしてくれたことで、供される食事、サービス、この空間のすべてにも神様の存在を感じて、崇高なひと時となりました。 シェフのパートナーであるソムリエの小林有已さんによるワインのペアリングも料理や素材の美味しさを引き立てる素晴らしいセレクトで、気づけば5〜6杯飲んでいました。 「私は料理を作ることが好きなんですけど、いつも辛味とか香りにこだわってしまって。今日のシェフのお料理は素材のおいしさを前面に感じられるもので、すごく感動しました」 そんな参加者の感想を最後に、神がかった夢のような時間は幕を閉じました。 「大人数で食べる料理をつくるのが得意ではないので、予定より人数を絞って開催して良かったなと感じています。KURKKU FIELDSには何度も来ているので、食材もスタッフのみんなも知っているしやりやすかったですね。今回は百年後芸術祭の一環としたイベントということで、メニューの一皿一皿に僕なりのメッセージを込めてみました。アートや映画と一緒で観た人に委ねる感覚で、食べてくださるみなさんに委ねました」とは小林寛司さん。 「百年後芸術祭初のEN NICHI BA、スペシャルダイニングイベントを無事開催することができました。寛司さんとご一緒してこの場をつくり上げる中で、“わきまえて生きる”というメッセージが自分の中で大きく響きました。通常であれば写真映えなど、刺激的な空間を求められることが多いのですが、今日は時間的にも食事が終わるのが夕暮れなので、夕陽が射した後にだんだん暗くなるように、心が落ち着く、整う、そんな環境づくりに徹しました」と大田由香梨さん。 外に出ると、ピンクとオレンジ、そして水色のグラデーションが空とKURKKU FIELDSの大地を彩っていて、心が洗われるような感動的な景色が広がっていました。「今日は日常の感覚から離れてみてほしい」。最初に大田さんが話されていましたが、この感覚を日常にしたい。自然とともに生きていることを毎日感じて生きていきたい。心からそう思える素晴らしい時間でした。感謝。 Photograper : Takahiro Kihara  Text:Kana Yokota

光輝く夜空の下、KURKKU FIELDSで開催された一夜限りの特別ライブ『円都LIVE(エントライブ)』レポート

木更津市

2023.11.08

光輝く夜空の下、KURKKU FIELDSで開催された一夜限りの特別ライブ『円都LIVE(エントライブ)』レポート

澄んだ空に冷たい風が心地よい秋の日。空が見事な夕焼けに染まった後に訪れるどこか夢見心地な日暮れのなか、圧巻の歌声が千葉県木更津市にあるオーガニックファームKURKKU FIELDSに響き渡った。 絞り出すようなハスキーボイス。ステージの上には、現在公開中の映画『キリエのうた』より登場したキリエ(vo.アイナ•ジ•エンド)が圧倒的な存在感を放っていた。 この「円都LIVE」は、「百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐」の一環として開催。岩井俊二監督と音楽プロデューサー小林武史による、『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』『キリエのうた』の音楽映画3作で生まれた楽曲が演奏される一夜限りのスペシャルライブだ。それぞれの作中に登場する歌姫、Chara演じるグリコ、Salyu演じるリリイ・シュシュ、アイナ•ジ•エンド演じるキリエ3人の歌声に、約2,500人が集まり酔いしれた。 バンドメンバーは⼩林武史を筆頭に、名越由貴夫、椎野恭⼀、キタダ マキ、四家卯⼤、カマタミズキがYEN TOWN BANDのコーラスに参加。映画『スワロウテイル』の架空都市「円都」の美術演出を務めた種⽥陽平が、本ライブの舞台美術に関わっているというのもファンにはたまらない内容だ。 また、「百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐」のメインイベントでもある「en Live Art Performance」と称した、音楽・映像・ダンス・光・テクノロジー(ドローン)を融合させたライブアートパフォーマンスで、これまでにない新たなライブを演出している。 オープニングを飾ったキリエ(vo.アイナ•ジ•エンド)は、映画の挿入歌である「ひとりが好き」「名前のない街」「ずるいよな」などを歌唱。「幻影」ではエモーショナルなダンスも交えたパフォーマンスを披露し観客を魅了した。 続いて、すっかり暗くなったステージに登場したのは、リリイ・シュシュ(vo.Salyu)。透き通る伸びやかな声で「飽和」「エロティック」「飛べない翼」「エーテル」、ラストに「グライド」を歌い、リリイ・シュシュ特有の世界観を表現した。 そして、YEN TOWN BANDのグリコ(vo.Chara)がステージに降臨。ローズピンクのドレスに淡いピンクのファーコートを羽織った佇まいと唯一無二な歌声はまさにグリコで、公開から27年たった今でも色褪せることなく私たちの前に現れた感動からか、会場はさらに熱を帯びる。 盛り上がりを見せるなか、「Sunday Park」「Mama’s alright」「上海ベイベ」などを歌唱。ステージの上から「岩井俊二いる〜!?」と言葉を投げかけたり、隣でピアノ演奏する小林武史に「なんか話してよ」と話をふったり、楽曲中にステージを降りたり、自由奔放な振る舞いで会場を沸かせた後、「She don’t care」のアウトロでキリエが再び登場しバトンタッチ。YEN TOWN BANDの音楽に合わせてキリエがダンスを披露した。 キリエの象徴でもあるカラー、ブルーのカーディガンを羽織ったキリエはそのまま楽曲「ヒカリに」に突入。暗闇に映えるブルーが彼女の透明感を引き立たせるなか、映画主題歌「キリエ・憐みの讃歌」を堂々と歌い上げた。 その最中、キリエが手を振り上げると、真っ黒な夜空に光り輝く無数のドローンが登場。満点の星空のような演出に、観客が一斉に空を仰ぐ。 いよいよクライマックス。「円都LIVE」のラストを飾るのはYEN TOWN BAND。「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」のメロディが会場に響き渡ると、歓声が湧き上がった。 バックハグで聞きいっている恋人たち、パパの肩車やママの抱っこでステージを夢中で覗く子供たち、微笑みあって音に身体を揺らす友人同士。ドローンの星空のもと、音を味わい、空間に酔いしれ、老若男女それぞれの心を震わせた「円都LIVE」。時を超えて今なお輝きを失わない音楽に奇跡を見た夜は、そうして幕をおろした。 小林武史 コメント「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「キリエのうた」、3作品の時間軸が離れている映画が一つに繋がった奇跡的な夜になりました。最高でした。 Chara コメント以前KURKKU FIELDSで(ライブを)やった時はコロナ禍ということもあり、規制があって声が出せなかったりと限られていましたが、今日は(規制がなく) 「アイナかわいい!」とか言えるし、それぞれの演出があってよかったです。Salyu コメント高校時代の憧れのヴォーカリストCharaさん、そして子供の頃に見た素晴らしい映画の独創的な世界観を作ったチームの最新作で本当に素晴らしいキリエちゃんを演じたアイナ・ジ・エンドさんを見て(「リリイ・シュシュのすべて」に参加していた)当時を思い出しました。長い時間軸の中に私もいさせていただいていることすごく光栄でした。アイナ・ジ・エンド コメント(ステージを終えてみて)死ぬ前の夢かな、実感がないです。ありがたいとしか言いようがないです。Charaさんの後にステージに出るのは足がガクガクで「帰りたい!」って一瞬なりました(笑)。小林さん、岩井さんをはじめすべての人に愛を教えてもらいました。岩井俊二 コメントこんな時がやってくるのかとなんか感無量としか言いようがないです。地道に頑張っていたら、こんなご褒美をもらえる日が来るんだなと思いました。 <観客コメント> 「多感な10代の頃に聞いて衝撃を受けた「あいのうた」。母となってから、愛の歌はすべて子どもに対しての思いに変換されていたのですが、スワロウテイルの「あいのうた」は、恋をしていた自分に戻る、本来の自分に戻る特別な歌だと、今回改めて思いました」(40代女性) 「映画『キリエのうた』を観て、楽しみに参加しました。岩井さんの映画はほとんど観ているのですが、どの作品も人間の光と影の両面を描かれていて、自分自身の青春時代と重なり合うようなシーンと小林武史さんの音楽が絶妙で大ファンです。そんな岩井さんの作品世界が夢のような舞台として実現するなんて本当に感動です!」(30代女性) 「自分の人生にこんなに素敵な瞬間が訪れるなんて、夢でも見ていたんじゃないか?と思うようなライブでした!ドローンの演出も素晴らしかったし、百年後芸術祭にふさわしいアーティスティックな一夜だったと思います」(40代女性) Photo by 岩澤高雄  Text:Mina Yoshioka

「百年後芸術祭」を通して各自治体の様々な取り組みが”オーガニック”につながるとともに、持続可能な地域づくりへのチャレンジを実現したい。

木更津市

2023.11.07

「百年後芸術祭」を通して各自治体の様々な取り組みが”オーガニック”につながるとともに、持続可能な地域づくりへのチャレンジを実現したい。

木更津市長 渡辺芳邦 ---------「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」開催の経緯をお聞かせください。 もともとは小林武史さんと市原市と千葉県の三者で話を進められていましたが、千葉県誕生150周年を記念した催しにしたいということで近隣市も一緒に開催できないかとお話をいただきました。そこで君津市、袖ケ浦市、富津市ともコミュニケーションを取り、5市で開催すればたくさんの方に内房総を見ていただけるだろうということで百年後芸術祭に加わりました。木更津市では、人と自然が調和した持続可能な「オーガニックなまちづくり」を進めています。そのような背景があることに加え、百年後芸術祭では環境を意識したものにしたいという意向もお聞きしていましたので、我々としてはその考えに賛同した側面もあります。その分、個人的には上総丘陵に位置する市町も含めて里山としての一体感を出しすなど、オーガニックの理念を盛り込みながら進められればという思いもありましたが、まずは5市で力を合わせていこうということになりました。 ---------「オーガニックなまちづくり」について、具体的な取り組みなどを教えてください。 そもそものきっかけは小林さんが木更津で始めた農業法人 耕す(現・KURKKU FIELDS)を見学したことです。私が市長に就任して間もない頃なので10年ほど前ですが、その頃の耕す農場では有機農業への取り組みを通じて自然が好きな方々が集まりネットワークを作っていました。そのような人と人とのつながりを見て、これからのまちづくりには「オーガニック」がキーワードになるのではないかと感じました。ここで言うオーガニックとは有機農業だけではなく、まちづくりを進める中で必要な様々な取り組みが有機的につながり、持続可能な地域を目指すことを意味する言葉として用いています。 当時の木更津はアクアラインの通行料金引き下げの効果によって活性化し始め、市内を訪れる方や移住者も増え始めていました。その影響で都市化への期待が高まっていたのですが、木更津が本来持つ価値を最大化して地域の魅力を高めていくには自然の豊かさを活かしていくべきだろうと考え、だからこそオーガニックというキーワードでまちづくりをしていこうと市の中で議論を進めていきました。そして2016年には具体的な理念をまとめた「オーガニックなまちづくり条例」を施行しています。現在のところ、例えば自然保護活動や農業振興、産業支援の取り組みなどを行い、食育計画の一環として、木更津市内のすべての公立小中学校の給食には市内で生産された有機栽培米を使うことなども精力的に進めています。また、干潟の見学やKURKKU FIELDSと連携した農業体験など環境教育も実施しています。これは海も山もある木更津市ならではのものだと言えます。 ---------渡辺市長は生まれも育ちも木更津市ですが、この地域の魅力はどんなところにあるとお考えでしょうか。 やはり自然は重要な魅力ですから、多くの人が自然に触れられるように市内の公園を再整備し、自然に触れ合う機会を増やしながら木更津らしい豊かさを感じてもらおうと考えています。例えば木更津駅から徒歩15分ほどの場所にある鳥居崎海浜公園では、海岸線に沿ったテラスの設置や地域の食材を取り扱う飲食店、海を眺めながら温泉を楽しめるホテルが入った複合施設の設立などを行いました。公園内にあるカフェは、夕陽と富士山を同時に見られる千葉県ならではの景色を眺めながらコーヒーを楽しむことができます。ぜひ多くの方にもこの素晴らしい景観を体感していただきたいですね。 2022年3月にリニューアルオープンした鳥居崎海浜公園。美しい夕陽を見ながら食事が楽しめる絶景スポット また、木更津は江戸時代から港町としての側面を持ち、江戸との海上交流が盛んでした。その関係でこの地域には歓楽街が形成され、江戸の文化や風習が入ってきて芸者文化も盛り上がりました。今でも木更津会館という芸者の育成や芸者の予約手配などを行う建物は残っていますし、実際に芸者を呼んで花柳界を体験することもできます。こうした伝統文化も木更津の魅力のひとつだと言えます。 木更津駅みなと口(西口)を出てみまち通りを進んだ先にある「木更津会館」 ---------木更津市では百年後芸術祭でどのようなイベント開催やアート作品の展示をしていく予定でしょうか。 10月21日(土)にKURKKU FIELDSで小林さんと映画監督の岩井俊二さんによる音楽映画の楽曲を披露する「円都LIVE」を開催します。また11月5日(日)には音楽や映像、ダンスやドローンなどを融合させた「en Live Art Performance」や、千葉の食材を屋台形式で味わえる「EN NICHI BA」を開催します。アート作品の展示は現在のところ検討を進めているところなので詳しいことはお話できないのですが、私たちとしては、木更津市の特徴である海と里山に関連したアート作品とともに、街中を歩いていただくきっかけになるようなものも常設できればと期待しています。 ---------100年後の木更津市がどのような地域になっていてもらいたいとお考えでしょうか。 日本では少子高齢化を筆頭に様々な課題があり、場所によっては今後消えて行ってしまう可能性のある自治体もあります。幸いにも木更津市は、この数年で若い世代の方の移住も増えているため人口が増加傾向にありますので、この先もいつまでもにぎやかで元気な街であってほしいと思っています。そのためにも、木更津らしい豊かさを維持し、東京近郊でありながら生活の中に自然が溶け込んだ暮らしができるようになっていかなければなりません。本日紹介したオーガニックなまちづくりという考え方は、そんな未来を見据えたものでもあります。 木更津市役所駅前庁舎から眺める木更津の街 ---------最後に、「百年後芸術祭」への期待をお聞かせください。 今回の開催地である他の自治体とは個別にコミュニケーションを取ることはありましたが、5市が一体となって何かを開催するということはありませんでした。千葉県には様々な可能性を秘めたコンテンツがありますから、私たちが力を合わせれば魅力的なアイデアを実現できると思っています。この百年後芸術祭をきっかけに多くの新しい取り組みにチャレンジしていきたいですね。もちろんそれなりの洗練さも必要ですから、無闇矢鱈と何にでも取り組むのではなく、それぞれがつながりながら統一感を持って進められるよう、ルールの設定が必要であることも忘れてはなりません。 また、木更津市としては、地域の中での経済循環を円滑にすることや、自然の豊かさをこれまで以上に市民生活と融合させていくことなどが課題だと考えています。これらを解決するヒントを百年後芸術祭を通じて得られることにも期待しています。 Photo:Eri Masuda Interview:Kana Yokota  text :Tomoya Kuga